再会

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再会

「ありがとうございました!」 サッパリしたお客様の笑顔を見るのが好きだ。 「高橋さーん!こっちもお願いします!」 「はーい!」 僕は、美容院通りにある一軒の美容院で働いている美容師だ。新しい法律が出来てからとても忙しい。国民みんながヘアスタイルに気をつけるようになり、美容院に人が集まって半年先まで予約がいっぱいだ。来店されたお客様だけでなく、全国から届いたヘアだけをマネキンの頭に付けてカットする事もある。 だから、美容院に来なくてもヘアスタイルチェンジができるのだ。体が不自由な方や、お年寄りの方には便利なサービスだと思う。 「ありがとう!これで色々な人とヘア交換ができるよ」 お客様が美容院から出る姿を見送る。顔を上げると、早速誰かとヘア交換している光景が見えた。僕の創り上げたヘアスタイルが、誰かから誰かへ繋がって全国へ広がっていくんだ。それはすごく嬉しい事だ。 「さぁ、次は届いたヘアをカットしなくちゃ」 自分宛ての段ボールを開け、中身のヘアを取り出すと白髪頭だった。一ヶ月に一回は必ず届く『中川優子』さんのヘア。お店には来た事がないが、僕のヘアスタイルを気に入ってくれているのか? 何度も送られて来ている。 『いつもありがとう。いつものヘアスタイル気に入ってます。いつもの感じでお願いします』 という手紙がいつも添えられている。線が細い美しい文字。 「はい、分かりました。今日もよろしくお願いします」 僕は中川さんのヘアにペコッと頭を下げて、マネキンに装着するとハサミを握りしめた。 ヘトヘトになりながら部屋に帰り、電気を点けると父さんの写真立てを眺めながら、ソファーに体を沈める。五年前に病気で亡くなった父さん。 「最近ずっと忙しいんだ。でもすごく楽しい。やっぱり、美容師の仕事は好きだ」 一人で寂しくても頑張っていけるのは、自分の仕事が好きで生きがいを感じているからだ。 父さんは生前薄毛だった。今の法律が出来たことを知ったら喜ぶだろうな。 忙しい1ヶ月が過ぎ、お昼休憩をゆっくり取れたので、MIYASHITA PARKのベンチでお昼を食べていた。公園を歩く人々。法律が出来てからおしゃれな人が増えたと思う。今までヘアスタイル、ファッションに興味がなかった人も興味を持つようになり、日本中におしゃれな人が増えたのだ。 日本中の人々が生き生きして見える。 そんな日本を見ていると自然と口元が緩み、僕の心もあたたかな至福で満たされていった。 「さぁ、もうそろそろ戻らなくちゃ。午後からも頑張るかー!」 雲一つない青空に向かって、ぐーっと背伸びを一回。美容院に向かって足を踏み出すと、そこら中から聞こえる「ヘアスタイル、交換しませんか?」の言葉。幸せな言葉を耳に残しながら美容院に戻ると、入り口辺りでウロウロしている人を見つける。 薄紫色のカーディガンを着た白髪頭の女の人。美容院の中を覗いている。誰かを探しているのだろうか。あれ? この人ってまさか……。 「もしかして、中川優子さんですか?」 え? っという顔をして振り返った女性は、僕の顔を見て恥ずかしそうに頬を薄桃色に染めると、段差に躓いて後ろに倒れそうになる。 「危ない!」 僕は思わず腕を伸ばした。 「あ、ありがとう。聡……」 僕は細い体を抱えたまま、彼女の顔を覗き込んだ。この香りはやっぱり、中川優子さんだ。 「えっ?! どうして僕の名前を?」 彼女は目尻に皺を寄せて、ふふっと笑った。   「ごめんなさい、聡。お母さんを許して。本当はお父さんと別れた時、小さかったあなたを連れて行きたかった。でも、体が弱かった私はあなたを連れて行けなくて、お父さんが引き取る事になったのよ」 「えっ? か、母さんな、の?」 父さんから母さんの事は聞かされていた。でも、名前も知らなかったし、ましてや写真だって見た事はなかった。 「突然会いに来て、お母さんだって言われても訳が分からないわよね? 本当にごめんなさい。でも、あなたが美容院通りの美容師として頑張っている姿をTVで見て、会いたくなってしまったの。でも申し訳ない気持ちがあったから、ヘアだけを送って切ってもらう事にしたの。一ヶ月に一回、あなたが切ってくれたヘアが届くのを楽しみにしていたのよ。とても上手でびっくりしたわ。その度に、あなたが頑張って働いているんだって思えたのよ。それだけでお母さんは幸せだった……」 皺が寄った目尻から、ゆっくりと流れる雫。 僕は細い肩を抱えたまま、呆然と立ち尽くしていた。 この白髪の女性が、中川優子さんが、僕のお母さん? TVで見つけた僕に髪を切ってもらいたくてヘアを送り続けてくれて……そして、会いに来てくれたの? 「聡、本当にごめんなさい……突然会いに来て困っちゃうわよね?」 「母さん、ありがとう!会いに来てくれて。 さぁ、中に入ろう。ヘアカットしてあげるよ」
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