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次は短期の仕事になります。「建築作業員」です。
短期なのには理由があり、現在の職業のルールで一つの建造物に対して、着工から竣工までが一つの職業となっているためです。その仕事の対象となる建造物とは、「第10代東方地区電力プラント用電力供給タワー」です。
地下資源の枯渇の代わりに、海流発電が安定してできるようになったため、電力問題はおおむね解決していました。けれども水力、風力、火力、原子力発電で今まで賄っていた部分の電力まで以前の状態と全く同じに、とはならず、やはり電力確保はドーム生活になっても問題になっていました。
この時代になっても電力は貯めておけないものなのは変わりなく、安定的に供給源を探さなくてはいけませんでした。新しい電力確保を調査している中、太陽光発電は、以前と変わりなく使用できるということが判明しました。
そして私たちは海底から洋上に向かって電力ケーブルを伸ばし、ソーラーパネルを水面に設置する技術を開発しました。洋上にドームと同じサイズのソーラーパネルを設置、安定して浮かばせるということに成功したわけです。そのソーラーパネルの設置は大変ではないのですが、そのパネルと電力プラントまでつなげる、ケーブルとそれを保護するためのタワーを設置するのが大変な作業なのです。
海底から海面までの数百メートルのタワーは常に海流にさらされており、円形で水流抵抗が少なくなるような外壁が必要になるのですが、タワーの中身は数本の鉄の棒が支えることになるので、その骨組みの設置が大変な作業になります。
陸上で生活していた時のように、空気中の作業であれば、晴れの日や雨の日、風の日に合わせて工事内容を変更できました。しかし現在はいつでも水流の中。その場に留まることも難しい環境での作業を求められたわけです。
そのタワーですが、海底から立てていくプランや、もともと海抜の高い場所に太陽子パネルを設置し、プラントまでケーブルを伸ばす、というような案もありました。けれども、海底から水面まで積み上げていく作業していく場合、水流に流されないための人員や部材の固定の大変さや、ソーラーパネルは水面では発電効率が悪い、ということで両案とも没になりました。そんな中、新しく生み出された作業方法が、「紐遠し作業」とも揶揄されている「海面落下工法」です。
この工法は海面から建築部材をプラントまで落としながら組み立てていく、というシンプルなもの。
最初の作業で海面にソーラーパネルを設置します。このソーラーパネルを工事完了までベース基地にしてしまうわけです。これで資材が海中で流されてしまうということから解放されました。
その次に電力プラント内のタワー設置場所まで長いワイヤーをはります。海中バイクがワイヤーの端をもって、海中を潜っていきます。海中に着いたら、プラントの電力供給ポートに結びつけます。そしてそのワイヤーを覆うようなパイプを一本づつ海面から「落とし」、どんどんパイプを積み重ねていきます。ワイヤーにしろ、パイプにしろ、丸いものなので、海流の抵抗はもちろん受けるのですが、固定し続けるという力を必要としないので、海流の計算が出来れば、危険水域や危険潮流を回避でき、安全に作業ができるのが利点でした。
その次に「9」の字に似ている外壁パネルを「9」の丸くなっているところに、前に通したパイプを差し込んで、海底に落としていきます。もう一つのパイプにも「9」の字パネルを落としていった後は、二つの「9」の字パネルの頭と足の部分を接合すれば、メインのタワーの完成となります。
後は海面から電力パイプをプラントまで「9」の字パネル内タワーの中を落としていき、海面に浮かんでいるソーラーパネルと接続すれば、太陽光プラントの完成です。
タワーを建てるといえば、かつては陸上から天に向かって建てるのが通常の考え方でした。ただ、現在の環境の変化により、天地の感覚が逆になったというか、天の位置は変わりませんが、地の基準点を海抜マイナス何百メートルの位置から海上をつなぐということから、「マイナスバベルの塔」とか呼ばれているそうです。
当のバベルの塔は、増えた人口を一か所に集めておくための超高層マンション的な構造物にして、人の言葉をバラバラにし世界各地に散らばらせることをされた神の降り立った場所、と言われていたり、人類が神への挑戦のために高く塔を建てたが、神によって破壊された、といった内容の伝説の場所です。
まぁ、そもそも以前の陸上での人間の生活があまりにも広範囲に広がり、そのくせ環境をいたわらなかったため、世界中を水浸しにしたにもかかわらず、環境変化計画に選ばれた民だけが「ノアの箱舟」よろしく、海底ドームで生活している辺り、神話をモチーフにするなら、そっちだろう、とか思いつつ、今日も「マイナスバベル」建設に向けて海上からものを落としていきます。
この仕事の何が大変で過酷かというと、海面での紐遠し作業、物を落とす作業のために海上に出なくてはならない、っていうことです。
すでにオゾン層が破壊されているのが確認され、空気の組成が変わり、紫外線と強烈な太陽光、黒点活動による電磁波など、数え上げれば上げるほど、たやすく仕事ができる環境ではないという地表において、防護服を着ながら作業をするのは、ある意味海底のドーム外作業以上に過酷です。
それに水圧と空気圧の差も激しい中、その作業環境に耐えられる適正があるのが、過去陸上にて生活をしてきた人達だけでした。
なので、後天的に身に着けた技能でもないのですが、作業できる人が限定されていることと、若い労働力が少ないので、どうしても力仕事は自分たちでするしかありません。パワーアシストスーツを着ているとはいえ、重労働、ハードな仕事ということでお給料は非常に良いです。
しかし、一度プラントが出来てしまうと、そこで仕事が完了、契約満了となることから、どうしたって短期の仕事になってしまい、人気もあまり出ない、という訳です。
とはいえ、今回の件で分かったことは、自分の適性を活かした職業傾向がわかったということです。
適正があって、さらに仕事がまだまだある、って素晴らしい、と感じつつ、プラントとソーラーパネルの接続、送電試験も完了しました。これで一つのプラントが稼働を開始し、海底ドームの生活も少し安定するでしょう。
これで、今回の私の仕事は契約満了、次の仕事に行くことが出来ます。
今回の退職は、人生初めての前向きな退職です。そしてそのまま転職につながりました。
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