2・クライアント

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 わたしがそう締めると、田所は見るからにほっとした様子で、「では」と言って、そそくさと荷物をまとめて、出口に向かった。 「あの、至らないことばかりで、本当、すみませんでした。課長は明日まで休みの予定なんで、明後日にかならず連絡いたしますので」 「わかりました。お待ちしてますね。遠いところ、ありがとうございました」  田所はまた、頭が膝につくのではないかというほど、深々とお辞儀をして、扉に向かった。  ドアの取っ手に手をかけたとき、急に振り向くと 「でも、佐久間さんが優しい方で、本当、ありがたかったです」  そう言って、ちょっと心に残るような、いい顔で笑った。  屈託のない笑顔の見本のような……
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