2・クライアント

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「じゃあ」 「ん……気をつけて」  喉まで出かかった不平の言葉を呑み込み、わたしは亘を送り出した。  いつものように煙草を吸いながら、なんとなくもやもやする気持ちをもてあましていた。  こんな機会、めったにないんだから、泊まっていけばいいのに。  とにかく慎重な性格なのだ、亘は。  たとえ1%であろうと、リスクがあると思えば、犯さない。  今日の場合は、奥さんにバレて、揉め事になるリスク。  彼が以前勤めていた、広告代理店の上役のお嬢さんだった奥さんは、よほどのんびりした性格なのか、わたしの事に気づいてないらしい。(そう思っているのは、亘だけかもしれないけど)  彼はジム通いを日課にしていて、うちに来た日も24時間営業のジムに寄ってから帰る。  体型維持と証拠隠滅の一石二鳥。
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