1・煙草

4/4
前へ
/104ページ
次へ
 目が覚めたわたしは、のそのそとベッドから降り、テレビの横の小引き出しから、タバコとライターを取り出した。  吸うのは、亘が帰っていったあとだけ。  紫煙を思い切り吐き出すと、虚しさも同時に吐き出せるような気がする。  それが錯覚でしかないのは、百も承知だ  結局、煙草一本吸うあいだに導かれる結論はいつも同じ。  亘との不毛な関係にすがっている自分の弱さに気づくだけ。  恋愛初期の熱情はもう失せていたけれど、亘のことは変わらず好きだった。   身も心もしっくり馴染んだ男との時間を惜しむ気持ちは強い。  結局、とくにアクションを起こすわけでもなく、なんとなくその日その日をやり過ごしていた。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

376人が本棚に入れています
本棚に追加