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「ただいま。ほら、これ」
帰宅した高田和幸は、玄関に出てきた裕子に手のビニール袋を軽く持ち上げて見せた。
「どうしたの? それ」
裕子が袋をのぞくと、そこにはいくつもの惣菜パンや菓子パンが賑やかに入っていた。
「イセフジのベーカリーコーナーでさ、ひと袋500円だったんだ。7個も入ってだよ?」
イセフジとは高田家の最寄りのスーパーのことである。駅から少し距離があるからか、その閉店時間は夜八時と比較的早い。また、このスーパーでは慣例として、その日の閉店に合わせて総菜やパンの値段が夕刻以降、徐々に割引になった。閉店時間が迫ると定価の半額以下に値引きされることもあり、それがちょうど和幸の仕事からの帰宅時間と重なるのである。
「見てくれよ。これなんか元々180円だぜ」
ひとつひとつのパンの包みには定価の値札が貼ってあり、和幸はそのうちのひとつを手に取って裕子に示した。
「すごーい。あ、これも160円もするんだ。買い物上手だね」
妻が顔をほころばせて喜ぶのを見て、和幸は袋のパンたちを彼女に任せると、満足したように洗面所へと足を向けた。
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