不思議な店Ⅱ

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不思議な店Ⅱ

気づいたらあの店にいた。 「戻って来られたのですね。上手くいきましたか?」 それはもちろん、信じられないほど上手く行った。 それが顔に出ていたのか、老人は 「よかったですね」 と静かに言った。 「この店を出ると、あなたの運命は変わっていることになります。その瞬間、あなたは代償を払わなければなりません。つまり、店を出た瞬間、あなたの大切な思い出が消えます」 ああ、そうだった。現実はそんなに優しくない。 「辛くても、現実に戻らなくてはいけません」 老人は自然に出口に案内してくれる。 本当にこれでいいのだろうか。 なにか、違和感がする。 最後に聞かないと、きっと後悔する。 そんな漠然とした思いに駆られて、自然と声が口から出た。 「私は、過去にこの店に来たことがありますか?」 「この店には、一人につき一回だけしか来られませんよ」 「それは分かっています。でも、過去に来ていないとすると、私の願いごとの記録があったのは不自然ですよね」 老人は気まずそうに言った。 「そういうことは教えられない決まりなので」 その曖昧な態度から悟った。 やっぱり、来たことがあるんだ。 「お願いします。この違和感がずっと残ったままじゃ嫌なんです。もう、本当にこの店には来られないんですよね? 最後に、真実を教えてもらえませんか?」 老人は苦い顔のままだ。 「お願いします。決して他言はしません」 丁寧に腰を曲げる。 教えてもらえるまで、こうしていよう。 「もう頭を上げてください」  老人は渋々言った。 「ほんの少しだけですよ」 「はいっ、ありがとうございます!」 「あなたが小学6年生のころでした。あなたは大切な親友と喧嘩しましたよね?」 ああ、そうだった。決定的な理由はないけど、なぜか嫌いになってしまって、それを彼女も悟って、数週間口を聞いていなかった。 ありきたりだけど、彼女と話さなくなってから彼女の大切さに気づいた。 でも、ずっと無視していたから、謝れなかった。 「そんなとき、あなたはこの店に来たんですよ」 「えっ、まさか......」 「いえ、本当です。そして私は、親友と仲直りしたいのかと聞きました。そしたら、あなたの答えに驚いてしまったんですよ」 老人は穏やかに笑う。その笑顔はとても爽やかだ。 「あなたは、仲直りは他人に頼むことじゃないから、自分でどうにかする。 それよりも、きっと今より困る時があるから、そのときにもう一度、私のもとに来てほしい。 そう願ったんです」 驚きが隠せなかった。 過去の私、カッコよくないか? 「私はあなたの願いを聞きました。そして、代償として、この店の記憶を奪いました。私にとっては、あなたのもとに現れることなんて、大したことじゃないですから、代償も小さくしたんですよ」 老人はまた爽やかに笑った。 「大切な親友なんですね」 やばい、なぜか涙が溢れ出てくる。 わたしはきっと、その後親友を、昼休みによく遊んでいた体育館に呼び出して泣きながら謝った。 ああ、やっぱり好きだ。 もう大きくなりすぎて出来ないけど、もう一度ブランコで二人乗りしたいな。 私はすごく単純かもしれない。 でも、また今度、絶対会いたい。 老人はあっという間に話し終え、嘘だったかのように自然に私を出口まで案内した。 最後に店を目に焼き付ける。 「ありがとうございました」 やはり、感謝しか出なかった。 老人も少しだけ微笑んで言った。 「ご来店ありがとうございました」
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