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そう言う鷹一郎の顔を、雪成が案じて覗き込む。
「よいち……元気無いぞ。何かあったのか……?」
不安そうな表情と声だ。鷹一郎は、そんな雪成へ苦笑いを見せるに止めて。其の髪へ優しく触れる。
「いや。済まぬ……帰ってからにしよう」
そう答える鷹一郎の表情に、雪成も此の場で問い詰める事は出来ず。早々に帰城となった運びに従うのだった。そんな馬車の中でも鷹一郎の表情は神妙で、何かを真剣に思い悩む様子が感じられた。当然、軽い話を吹っ掛ける気にもなれる訳も無く。
城へ到着後。鷹一郎は、本日の議会について信蔵含む側近等へも報告をとの事。夜迄時が取れぬが、食事は必ず共にと微笑んで背を向けた。雪成は、其れを見送りつつも其の背が泣いている様に見えてしまって。食事の時も、雪成の話へ微笑みと声を返してくれる鷹一郎だが、雪成には無理をして居ると見えてしまう。本日の議会で一体何があったのか。其れが語られたのは、宵の事であった。
「――ひ、雲雀様が、家臣の男と……って、そいつどんな野郎なんだよっ」
閨の中にて、動揺を隠せなかった雪成。話を切り出した鷹一郎へ、身を前のめりに。雲雀は、初対面より雪成に憧れを抱かせた姫である。足らぬ男であるならば、納得は行かぬと。しかしながら、此の雪成の反応へ鷹一郎は些か複雑そうな表情を浮かべたのだが。
「松前田新之助と名を持つ。我等には幼き頃より馴染みある家臣で、不幸もありながら、性質は朗らかで芯も強い、面倒見の良い男で職務にも忠実であった。私としては、姉上の側を任せても不満は無い」
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