老いた翼。若き翼。

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 竜衛門の声は静かだが、雪成以上に強い声。序でに儀礼も捨て去られた言葉。らしく無く、只大人しく居るだけの雪成へ、叱咤する様に。鈴と信蔵も、多少思う事あれど其の様を静観して居た。  雪成は、返す言葉が無く俯く。 「俺の仕事……」  誰へとも無く呟いた声。そうだ。以前の己は、もっと思うままに振る舞えた。鷹の尻を叩き、やれ爪を出せ、翼を広げろ。けど、鷹一郎を恋しく思う余りに、どんどん女々しくなる己も居て。己が、此処へ来た意味を追及する事が怖くて。其の先が怖くて。一鶴の血を継ぐ者が、此れで良いのか。否。血に恥じ入る、恥じ入らぬではない。己がどうしたいか。何を望むのか。  雪成は、拳を握り締める。徐に上がる顔に浮かんだのは。 「そうだ……そうだよな、竜!俺には俺の仕事がある……!」  何やら、晴々とした表情の雪成が竜衛門へとそう言って。其の瞳に、雪成らしさが戻った事へ竜衛門が柔らかに微笑む。 「そうだ。景気良く鳴いてやれ!喧しいって、お怒りに成られる位にな!」  竜衛門の激励に強く頷いて見せた雪成へ、信蔵と鈴も顔を見合せ安堵したのだった。  竜衛門が帰って行った後。雪成は一人部屋で、久方振りに織機へ触れた。織るのは、恋しい夫が好む褐色の糸。勝つ為の色。此の糸に込められる思いは、鷹一郎の未来の為に。 「――よいち、お疲れさん。竜が印籠仕上げてくれたぞ!よいちに似合いだ」  宵の事。其の日、雪成は部屋へと入って来た鷹一郎へ飛び付き、そんな言葉で迎えた。本日はかなり遅くなったにも関わらず、雪成が起きて居てくれた事へ喜びつつ口付けを。  向かい合い、改まった処で鷹一郎へと贈られた印籠。鷹一郎は、其れを瞳に映し微笑む。 「何と……やはり、竜衛門殿は素晴らしい腕を御持ちだな。此の鷹、表情がある様だ」
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