老いた翼。若き翼。

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「よいち。変わる為には、良い事ばかりじゃないぞ。欲しいものだけ取るなんて、巧くは行かないさ……いらないものも付いて来る、したく無い事もしないといけねぇ。けど、其れと此のまま見てるのと、どっちが良いんだ?」  其の言葉に、鷹一郎が目を見張る。何時も己へ寄り添うてくれた姉の笑顔、兄の様に接してくれた新之助の笑顔。己が傷付くのを避けて、恩義ある大切な人が傷付くのを見て居るだけか。其れが不本意な道であれ、今己が其の人の為に出来る最善が一択であるのならば。  迷いを振りきらんとする鷹一郎の横顔に、雪成は瞳を憂えさせる。此の背を押す事は、雪成にとっても酷な事。もし、鷹一郎が後継に選ばれ様ものならば、子の産めぬ正室を持つ鷹一郎は、必然的に女子の側室を迎える事を余儀無くされるのだから。鷹一郎は、己だけのものではなくなってしまう。  だが、雪成は笑う。そして、鷹一郎の背を軽く叩いて。 「よいちは、今迄真面目に沢山頑張ってきたんだから、其れを其のまま上様へ今より少し分かりやすくお見せすれば良いだけさ。心配すんな!俺が、必ずよいちに福を呼んでやる!鶴の羽は、全部よいちにやるぞ!」 「雪……」  目が眩む程に美しい雪成の笑顔。不思議な感覚であった、此の笑顔と声を聞いて居ると、己にも翼があるのでは、そんな幻想をも抱かせるのだから。鷹一郎は、今一度手に在る鷹を瞳に映す。此の手に在る鷹の如く、強く凛々しくなれるのだろうか。正直、兄を相手に己が何処迄渡り合えるか。其れに、己の走り出しは兄より随分と遅い。鸛一郎の様な器用さも、梟一郎の様な思い切りも己には無い。其れでも。  鷹一郎は、雪成の身を引き寄せ、強く抱き締めた。
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