老いた翼。若き翼。

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「そうだな。そうだ……私に足らなかったのは、覚悟だ」  強く締まる腕の中で、雪成も其の背へ腕を回して鷹一郎を抱き締める。 「よいち……」  鷹一郎は、雪成へ口付けた。触れるだけだが、其のぬくもりを確りと感じられる様に。軈て、徐に離れる唇。 「私も、父の後継を目指す。再び、兄姉、新之助と共に在れる様に、私が父へ声を上げる」  強い決意溢れる、鷹一郎の瞳と声へ。 「頑張れ、よいち……!」  変わらぬ笑顔で背を押す。再び重なる唇は、共に険しきを歩み行く覚悟の口付けでもあった。  気持ちの上で、後継争いより一線退いて居た鷹一郎が、遂に身を投じる覚悟を決めた。兄弟の距離が広がる中で、鷹一郎は其れを父の責と何処かで思い、反発して居た。だが、雪成の声に領地を育て行く中で、己が背負うものが何れ程に重く大きなものかを実感して行く。父の補佐でも、小遣いでも無い。此れは、盤上遊戯では無いのだ。民の明日、未来、其処にある多くの人生を背負うものだと。鷹一郎は、此処で漸く父の在り方へも理解を示しだした。時に、綺麗事だけでは其れを背負う事が出来ぬのだと。父が背負うは、己が今預けられたよりも重く大きなもの。其れを託すに、妥協が出来ぬのは当然。其れこそ、父は想像を絶する大きな義務を背負って居るのだと。  出遅れた足。だが、鷹一郎は己の資質を活かし、確実に前へと進み行く。時に父を、兄を参考に、家臣の声も聞き己の領地へと当てて運びを決めて、試みる。似た様な地を管轄する家との提携、情報の行き来等。嘗ての己と変わり無く、傲る事無く、常に学び、確実に己のものへ。
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