老いた翼。若き翼。

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 其れは、確かに時を要した。其の形が漸く整い、次の一歩を踏み出せる迄に又同じ季節が巡って来たのだから。雪成を迎えた春も訪れ、越え、夏を過ごし、決意をした秋が再び。幸い、鷲正も雲雀と新之助の裁定は引き伸ばす意向へ。第一子である雲雀への情や後継者決定を急ぐ多忙、老い行く身には、早急に多くを片す勢いも衰えつつありと言うた処か。  遂に来た其の日、旭日川の城にて。登城を命じられた鸛一郎、梟一郎、鷹一郎が並ぶ姿が。鷲正は、三人の息子が用意した、各領地の詳細を記した書簡を机上へ並べて居た。其の側へ控えるは、此れ迄共に歩んで来た側近五名が。本日は、少々重い雰囲気。其れと言うのも。 「――私も老いた……そろそろ、正式に後継を決定せねばなるまい」  少し掠れた静かな声が、吐く息と共に言葉を紡いだ。五名の重鎮等が、主君の意思へと厳かな拝にて答える。其々同じく、其の顔へ鷲正と共に歩んだ時の分皺が刻まれて。  鷲正は、鸛一郎、梟一郎、鷹一郎と、順に書簡を広げ、読み進める。次に、読み終えた順に控える家臣の手へ。家臣等も、其れを余す事無く文字を読み進め。全てへ目を通し、書簡は丁寧に元の形へと仕舞われた。続き、家臣等が鷲正のみ理解出来る術にて、意思を示して行く様子が淡々と続き。  遂にそんな動きも落ち着き、鷲正は正面を向き、口を開く。 「先ずは。三人共に其々の知識や資質を活かし、当初以上の成長を領地へもたらした。此処は、優劣無く良くやったと……だが、我が後継となると、更に細かく事を見極めねばならぬと理解を貰いたい……後継は――」  瞬間。鷲正は僅かに身を屈め、声を其処で一度止めてしまう。何やら、胸へ一度手をやる仕草へ、鷹一郎が案じ思わず口を開き掛けたが。其れでも鷲正は、直ちに身を戻し息子等を強く見据えた。 「我が後継は、鷹一郎に決する」
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