老いた翼。若き翼。

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 鷲正の、強く厳格な声が静かな部屋へと響いた。此れに、鸛一郎は表情を強張らせ、梟一郎は特に表情を変えるでは無く、父の顔を見据えたまま。そして、鷹一郎も又何時もと同じく表情を変えるでも無く、厳かに拝を。 「拝命致しまする――」  変わり無い、静かな声で父の意思を受け入れたのだった。  遂に、末子鷹一郎が後継者と決定された。此れは、当初ならば考えられぬ結果。只鷲正の中で、鷹一郎の最大の欠点なる処が埋められたとあっては、最早一択であったろう。しかし、其れがこんなにも早く形となると迄期待はなかった。其れ程迄に鷹一郎の欠点、老いた心は致命的であったのだ。一体、何が鷹一郎を変えたのか。やはり、鷹一郎が捕らえた鶴の力であるのかと。だが、其処へ一抹の不安をも抱いて居た鷲正。旭日川家で鶴が鳴いたのは、過去一度。戦が続く世を終結に向かわせる、正に動乱の時代であったと。現状、表面的には旭日川は安泰に見えよう。しかし、其の基盤が徐々に揺るぎつつある事を、鷲正は常に危惧して居た。こんな時期に、鶴が旭日川へやって来たと言う事は、と。  議会を終え、後日正式な儀を以て鷹一郎へ全てが託される事となる。一先ず城を後にする鸛一郎、梟一郎、そして鷹一郎。鸛一郎は、誰とも声も視線も交わす事無く早々に城を後に。残り並ぶ、馬車の前で梟一郎が鷹一郎へと軽く声掛けを。 「鷹一郎がとは、驚いたぞ。正直、意欲が見えなんだと言うのにな……」  梟一郎の笑顔は、何時もと変わらぬ穏やかなもの。そう、瞳も何時もと同じくで。鷹一郎は、静かに頭を下げた。 「若輩故、兄上等へ御教授頂く事も多いかと」 「いや……我等はもう必要なかろう。そなたには、美しい鶴が付いて居るだろう。ではな」
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