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己の馬車へと身を向ける梟一郎。最後の言葉は、心成しか寂しげに聞こえたのは何であったのか。梟一郎の背を見送った鷹一郎も、帰路へと相成った。
帰城し、馬車を降りた鷹一郎。側近への報告より前に、雪成の元へと足を向ける。が、此処で。
「よいち!」
聞こえた声、進む先に見えた眩しい笑顔。鈴等に付き添われ、部屋を出て来たのだろう雪成が駆けて来る。思わず立ち止まってしまった鷹一郎の胸へ、元気に飛び込んで来た雪成。鷹一郎も其の愛しい身を、確りと受け止め、そして抱き上げる。
「わ……!」
突如浮いた身に驚く雪成、そして周囲も珍しい鷹一郎の行動へ目を見張ったが。
「雪。父上が、私を御認め下さったぞ……そなたの力があったからだ。有り難う」
抱き上げた雪成を見上げ、微笑みと共に一番の報告を。雪成は、覚悟していた其の報告へ一瞬声を詰まらせた。けれど、直ぐに笑顔と共に鷹一郎へ腕を回す。
「見ろ!よいちに福が来たろう!って、俺は何もして無いんだけどな……よいちや、皆が一緒に頑張ったからさ!」
「ならば、雪も共に頑張ってくれた……私が動けたのは、雪の声があったからだ」
鷹一郎は、雪成を地へと下ろしてやり改めて其の身を抱き締めた。雪成の姿を前に、漸く実感が湧いて来たのだろう。家臣の目も憚らず、つい。
「此れより、皆へも報告を……雪へも又改めて話をしたい。今宵部屋へは、早くに向かうからな」
「うん。待ってるぞ!」
笑顔の雪成より徐に身を離すと、鷹一郎は背を向けた。控える信蔵、家臣等と共に。其の背を見送る雪成の笑顔が、徐々に曇り行く事へ誰も気が付く事はなかった。
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