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「――雪。近く重鎮を揃えた場にて父の正式な宣言を以て、我等共に旭日川の城へ移る事となる」
鷹一郎が、腕の中の雪成へ、神妙に告げた。雪成は、其の話に又一瞬表情を強張らせるも。
「あの、雲雀様と新之助殿は……」
ずっと気掛かりであった一件を問う。鷹一郎の多忙な日々へ、敢えて何も聞かずに来た雪成。だが、何か変化があれば必ず鷹一郎は語ってくれる筈だと。今現在も、動きが無かったのであれば。
鷹一郎が、雪成へ頷き其の髪を撫でる。
「幸い、父も姉上へは情が強かったのだろう……我等の状態が定まる迄、置いて居たらしい。正式な手続きが済まされたらば、必ず父へ訴える。私は、姉上と新之助が良い形で共にあれる姿を望む」
鷹一郎の強い声。鷹一郎が、此処迄登り詰めた原動力は其処であったから。雪成は、そんな強い思いが伝わる言葉に笑顔で身を寄せた。
「よいち。本当に変わったよな……凄いぞ、どんどん御偉いさんになってく……何か、ちょっと寂しいな。俺、何時か要らなくなったりして……」
ほんの少し、本音が漏れた。今己はどんな顔をして居るのだろう、笑えて居る自信が無くて鷹一郎の胸へ顔を埋めてしまう雪成。どんどん、鷹一郎が離れて行く現実。鷹一郎の福が『全て』揃うたならば、己はどうなるのだろうと。しかし、鷹一郎は雪成へ回した腕に力を込めた。
「私には、雪が全てなのだ。雪と共にあれるのならば、私は何でもする……雪とこうして居る事が、私の福だ」
雪成が抱く不安とは逆に、鷹一郎にとっては雪成が居るからこそ。此の声に導かれ、此の笑顔があったから此処迄来た。雪成が此の腕から離れる事等、其れは何よりの恐怖であると。
雪成は、鷹一郎の腕の中で唇を噛み締める。
「俺もさ。何があっても、よいちだけが俺のつがいだ」
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