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腕を回し、そう答える雪成。其れは、強い覚悟の言葉でもあって。
「つがいか。そうだな、私も雪が生涯唯一のつがいだ――」
答える鷹一郎の声、髪へ触れる優しい掌。涙を堪えた瞳に、鷹一郎を映すと唇が塞がれたのだった。
雪成にとっても、鷹一郎が全て。鷹一郎の決意から流れた季節。雪成の中では、ずっと心の霧が晴れぬまま。時が、事が進めば進む程に迷い、恐れ。そんな霧の正体は、此れより直ぐに姿を表す事になる。
鷹一郎が後継と定められ、其の準備と家臣等への意識が高まり行く。だが、此の動きこそが、嵐の前触れであった様だ。
ある日。明るい昼間の事、一台の馬車が鸛一郎の城へと通された。其の馬車より降り立ったのは。
「――よう御越し下さいました。梟一郎様」
並び出迎えるは、鸛一郎の側近等数名。梟一郎の両側へは、護衛兼側近の二名が。梟一郎は、穏やかな表情にて軽く頷く仕草で。
「ああ。兄上と話は出来るかな」
「は。此方へ」
流れを心得て居たのだろう動きで、側近等は梟一郎を城内へと案内する。通された客間では、鸛一郎が既に居座り脇息へ凭れる姿が。其処へ、側近等も下の方にて控える。
「――遅かったな」
どうやら、予定より少々遅れた様子。不機嫌な一声を兄より頂き、梟一郎は苦笑いを浮かべつつ。
「急いだつもりではあったのですがね……」
一言返し、扇子を広げた梟一郎。続き。
「どうですか、兄上……納得は、いきましたか」
含みある言葉を鸛一郎へと投げ掛けた。其の問いへ、鸛一郎は暫し黙り込み梟一郎の瞳を見据えたまま。
「……お前は、感情が分かりにくいな」
梟一郎は、軽く風を扇ぎながら又苦笑い。
「私に言わせるならば、兄上や鷹一郎が素直過ぎるのかと」
「鷹一郎と並べるな」
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