老いた翼。若き翼。

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「――殿。大事に御座いまする……!」  動揺の中、僅かに震える手で厳かに渡された一通の書簡。其れは、鷲正よりだ。鷹一郎も、此の雰囲気に一体何事かと不安を抱き其れを広げる。が、信蔵と同じく動揺が先ず表情を歪ませた。 「異議、申し立て、とは……兄上……」  そう呟き、鷹一郎は其の書簡を机上へ置く。と言うより、手の力が抜け滑り落とした様に。其の内容は、口にした通り。鸛一郎、梟一郎が父へ此度の決定へ同意を示せぬとの声を上げたのだと。勿論、息子の声を聞こうと場を設けた鷲正。だが、鷲正が耳を傾けてみれば其の声こそ鸛一郎、梟一郎へ跡目を継がせられぬと判断した部分であったのだ。願わくば、語る迄無く己で気が付いて欲しかったが、とうとう其処は変わらなかったのかと憤りと共に一蹴。何より天下人なる鷲正と其の重鎮等の決定に、従えぬ事も傲りであると。  両者譲らず。其処より旭日川が割れたのだ。更に、鸛一郎と梟一郎は、過去の戦の責に、勢力を抑えられて居た家々と密やかに通じて居た事も明らかとなったと。何時か、竜衛門より軽く耳にした一件を思い出した鷹一郎。しかし、兄等がそんな事をとはどうしても考えられず。いや、考えたくなかった。鷹一郎は、ずっと姉兄と並び笑える日が来ると信じ、其れを糧ともして来たから。雪成の声に漸く歩き出せた己ならば、何かを変えられるやも知れぬと。  半ば放心とも言える表情で書簡の文字へ目を落とす鷹一郎へ、信蔵の動揺もおさまらず。そんな信蔵へ、鷹一郎は吐く息と共に声を。 「武力行使も辞さぬと……此のままでは、確実に御家騒動へ向かってしまう……だけであるならばまだ良いが、戦か……」
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