110人が本棚に入れています
本棚に追加
力無く、現実を口にした鷹一郎へ信蔵は息を飲んだ。
「い、戦、ですと……っ」
「此れには、既に監視下に置かれていた力ある家も関与して居る……そちらも動かすと言うのならば、最早我等の跡目争いの枠ではおさまらぬ。可能性も視野に入れねばなるまい」
続いた鷹一郎の声は、不気味な程に冷静であった。余りの精神的打撃から、逆に頭も心も冷えきったのやも知れない。後に発展するであろう、恐ろしい事態をも淡々と。
信蔵は、辛うじて感情を出し事態に備えねばと膝を上げ動きを見せた。
「殿。如何に……!」
信蔵の強い声に、鷹一郎も何とか心を保とうと強く頷く。
「直ちに議会を開き、状況の通達とあらゆる事態への思案を。後、父上の元へ書簡を送り、まだ息の掛からぬ家との連携を促してくれ。父上ならば、そちらの調査も隠密へ既にさせて居る筈だ」
「御意に!」
鷹一郎の命へ、強く答えた信蔵は直ちに身を動かしたのだった。信蔵の去った、静かな部屋にて、机上へ落とした書簡を蓋び見詰める鷹一郎。其の端を手に取る。
「戻れぬのか……どうしても……何故、何処で、こんな事に……っ――」
掠れる声。書簡を掴んだ鷹一郎の手へ、力が込められる。静かな部屋へ響く、紙が縮み行く音。握り締めた其の拳は、哀しげに震えて居たと云う。
其の後の城内は、皆告げられた事態へ動揺を胸に息を飲んだ。慌ただしく其々が動き出す中、直ちに議会の場が設けられた。勿論其れは、最悪の事態を視野に入れた運び。家臣等も動揺が強くあるも、徐々に其の深刻さへ覚悟を示して行く。皆、慕う主の為に運命を共にする覚悟を。
最初のコメントを投稿しよう!