老いた翼。若き翼。

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「何……」 「凄く、辛いんじゃないのか……何で、俺に隠すんだ……何で謝るんだっ!」  鷹一郎は、雪成の声掠れる憤りに、目を見張った。 「私は……」  言葉は其処で詰まり身動きも出来ぬが、膝に付いた手が拳に変わる。雪成は、鷹一郎へしがみつく腕に力を込めて。 「辛いなら辛いって、俺にちゃんと言えよ!兄貴等と喧嘩しなきゃなんないんだろう!そんな事……目茶苦茶、辛いじゃねぇかよ……っ」  涙してはならぬと言うのに、雪成の瞳からは涙が溢れて居た。己が鷹一郎の背を押したのは、こんな事の為では無かったのに。  鷹一郎は、徐に震える雪成の背へ腕を回した。 「済まぬ……どう言えば、良いのか……」  其れは、息を吐くと共に出た掠れそうな声。雪成は、鷹一郎の顔を見る事無く背へ回した腕に更なる力を込めて。 「よいち……っ」  鷹一郎の腕も、雪成を抱き締める。其の胸元へ顔を埋めて。 「また……何時か、何時か揃って、昔の様に……姉上や、兄上と新之助が居て……共に……」  其処で、一度止まった鷹一郎の声。 「信じて、居たのに……っ――」  思いを絞り出した悲痛な声が、部屋へと響く。在りし日の、姉兄、己。其の中に居た、新之助。笑顔で居た日が、確かに在ったのだ。何がいけなかったのか、姉が新之助を愛し、世嗣ぎを拒んだからか。己等が、違う母より生まれたからか。己等が父の子であるからか。其れとも、己が信じた兄弟の絆が幻想であったのか。  雪成も鷹一郎を抱き締める。鷹一郎の、堰を切った思いが、雪成の胸を締め付けて。やはり、己が鷹一郎の元へ来たのは間違いであったのか。愛しい鷹一郎を、最も傷付ける結果へと導いてしまった。双方、巡る思いは苦しさと哀しさで染まって。  雪成は、胸の中で叫ぶ様に鶴へと答えを乞う。どう舞えば、どう鳴けば、愛しい夫へ福を授けられるのだと。己は、何故此処へ来てしまったのだと。
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