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鷹一郎は止まぬ知らせを耳にし、驚きの余り動きは愚か、呼吸も止まったやも知れぬ。
「他へも知らせが。奥方様の反物と共に書簡が届いた御家が、次々物資や軍を要請して下さって……!」
唇を噛み締める鷹一郎。そして。
「雪成……!」
戦場に在りながら、一瞬其れを忘れて恋しい名を呼ばずに居れなかった。だが、直ぐに表情を引き締める。鶴の声が響いて居る、鷹も応えねば。声を張り上げ、鳴かねばなるまい。
「聞いたか、皆!我等には、福を呼ぶ鶴が付いて居るのだ!勝鬨を上げるは、我等であるぞ!」
鷹一郎の其の声に、皆が疲労も忘れ声を張り上げ答えたのだった。
其れより、戦況は一辺。どうした事か、どんな策も先を読まれたかの如く潰されて行く様へ、鸛の軍も梟の軍も、焦りを覚え出す。此の上更に、降伏寝返りも続き、鸛と梟の軍の士気も下がる一方。
徐々に集まる鷹と鷲の軍への加勢に、勝率を上げるに有効なあらゆる策が可能となったのだ。そして、兵法の知識と才に関しては鷹一郎が兄二人を上回る。当初不利な状況にも関わらず、鷲と鷹の軍が此処迄持ち堪えるに其れが大きく左右したのだから。争いを最も好まぬ鷹一郎が戦の才に秀でて居たのは、此の兄弟の皮肉であったやも知れぬ。
遂に。
「――殿!鷹の軍を筆頭に鷲の軍も止まりませぬ……他家の無条件降伏、寝返りも続き、今残る軍で勝機は最早……!」
側近の一人が、焦りと恐怖も入り交じる一報を梟一郎の元へ告げに。梟一郎は、不気味な程に静かな息を吐いた。
「鶴が鳴き居ったか……」
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