鶴の婿入り。

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「――興味が湧かない。行きたく無い」  手にある見合い用の似せ絵を眺め、首を振り否を示す青年。着流しに羽織りを纏い、伸ばした髪は、うなじ辺りで柔らかに結われて居る。見目は母親似か、妖しく繊細な雰囲気醸し、率直に言うと真麗しい美貌。其の青年の前に並ぶのは、父母と次期当主成る兄夫婦。 「困ったな……此のままだと、お前だけ行き遅れてしまう」  溜め息と共に腕組みしつつ悩む兄。隣の義姉は、宥め苦笑い。父母の方は、少々神妙な表情であるが。  そう。此の青年は、福をもたらす家の末子。一鶴 雪成(イッカク ユキナリ)と名を持つ。第一子成る兄、光吉(コウキチ)を除き、他兄姉は其々おさまる処へおさまった。故、一鶴家の掟には此の雪成を残すのみで。どの似せ絵や文を見せても、雪成の首は縦に動かない。多くの見合いの中には、勿論君主の一族も含まれると言うのに。 「雪成(ユキナリ)、もうお前だけなんだよ。一鶴家で、行かずはな……ほれ、此れなんかどうだ。可愛いらしいお嬢さんだろう?」  穏やかで優しい雰囲気を醸す父が、何とか雪成の説得に掛かる。傍らの母も、父が推す似せ絵を広げ畳み掛ける様に笑顔で頷く。雪成は、何気に其の似せ絵と軽い紹介欄へ視線をやり、眉間へ皺。 「あ、此の家……絶対嫌だ。此処の長男坊、嫌がる彩(アヤ)姉に付きまとって言い寄ってたの、俺知ってるんだ」  最近嫁いだ姉が、当時溢して居た愚痴を暴露。此れに、先程迄穏やかであった父の表情が変わる。 「彩にだとっ?そんな兄が居る家等、お前もやれん!却下だっ」  子煩悩な父は、母の手より其の似せ絵を取り上げ部屋の隅へ放り投げてしまった。と、此処でおっとりした母も困り顔で。 「あ、あなた、其れだと、今回も全滅ですわ……」 「うっ……」
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