鶴の婿入り。

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 妻の突っ込みへ我に返り、項垂れる父に光吉も額をかきつつ。  此れ迄、雪成の直感を重視し、見合い用の似せ絵と紹介のみを男女問わず見せて来た。一鶴家の者には、本能的に向かう家との相性が分かる力が備わる筈。故に、身分がどうので決められるものではない。雪成が納得せねば意味が無いのだ。とは言え、こうも雪成が拒んでばかりとなると、今回の代では相性良き者が居らぬのやも知れない。 「無理矢理は、な……雪が不幸になる可能性もある」  父母へも顔を向けて出た兄の言葉は、父母共に同感だと頭を抱える。 「まぁ、お前もまだ若い。一先ず、もう暫く待ってみるか……明日は、御先祖様の元へ詣でよう」  苦笑いを浮かべ、そう言うた父。行き遅れは不名誉ではあるが、最悪其の可能性もある事を、一先ず御先祖様へ御伝えしておくかと。半ば諦めて居た父母と兄夫婦であった。  処がだ。其の一月程経った頃、ある青年がやって来た。母の古い友人の伝を頼りに、一鶴家の末子を是非と頭を下げて。多額の結納金を約束する証書と、己の丁寧な紹介の書簡と共に自ら。何と、其の青年は現君主の側室が産んだ、末子となる子で父より家臣団の重鎮である身分を頂いて居るらしい。其の日、雪成は得意先へ営業に出て居り不在。此の内に家族会議が開かれ、帰宅直後の雪成へ突撃。両親兄夫婦が畳み掛ける様に推すのだ。末子だろうが何だろうが、君主の子。であるにも関わらず、自らが出向き申し出るとは、他には無かった誠実さも加点。少々堅物にも見えたが、其処は伏せてとにかく真面目そうな青年であると。
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