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「俺達はさ、御鶴様から沢山頂いた富や福を、必要とする家へ分けてやるんだよな……けどさ、俺は見た事も無い奴に福をやる為に生まれたとか思えないし、其れで此処を出されるのも納得いかない」
己等の家が受け継いで来た慣わし。何故、己等が奉公の如く散らされねばならぬのか。兄や姉もそんな理由で余所へ向かったが、幸せなのだろうか。其れも分からない現状で、今己も理解追い付かぬ直感にて婿入りを果たそうとしている。雪成には、受け入れるに難い。
「御免。本音を聞いて欲しかっただけさ……行くよ。此処で良い、話を進めてくれ」
諦めた様な声であったのは、やはり一族の立ち位置に不満があるからだろう。しかし、其れで我が家へ更なる富、繁栄があった事も否定出来ない。気は進まないが、兄姉が語ったのは此の感覚であるのやも知れないと、己へ言い聞かせる。己でさえ巧く言葉と出来ぬ、霧の様な鬱蒼とした思いは晴れぬままだが。
皆を困らせたと、軽く笑って話を済ませ様と雪成は動く。だが、此処で父が口を開いた。
「雪」
優しい笑顔の父へ、腰を上げ掛けた雪成が止まる。
「其処はな、大丈夫なんだよ」
「え……」
目を丸くさせた雪成を前に、父は母の肩を抱く。僅かに、父へ傾く母の身。そして、驚く顔に頬も染まる。
「お前の直感、其れはちゃんとお前が幸せになれる家に行けるって事だ。福をお裾分けに行くだけじゃない。福を分けてやりたいって、思える家を見付けたって事なんだよ」
「分けてやりたい家……?」
依然、穏やかな笑みを浮かべて頷く父。
「お前はまだ気付けないだろうが、それこそお前の意思なんだ。私等や、光吉等を見ていて思わないか?私は、母さん以外へ余所見をした事は一度も無い。見合いの書簡だけで惚れて、今なんだよ」
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