鶴の婿入り。

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 一鶴家と雇い人等総出で、其の花婿行列を見送る。父母、兄は此処迄。雪成は、単身で婿入り先へと向かう。此の日は、君主より手配頂いた多くの護衛を連れ、高価な反物を積んだ馬車に揺られて向かうは、都より少し離れた領地にある武士の城。  其の武士が任されて居る田舎――基。静かな城下町は、煌びやかな一行に驚き、見惚れる。無邪気な幼子は瞳を輝かせ、後を追ってみたり。そんな雪成の花婿行列は、立派な城の前で歩みが止まった。其の門前には、一行を出迎える主を始めとする重臣の者等が並ぶ。男は皆、黒の紋付き裃を身に付けた袴姿。女は、黒の留め袖にて。厳かに揃い、其の頭を下げて。  止まった馬車より雪成が降り立つと、青年が一歩歩み出る。   「――よう御越し下さった。私が、当主。旭日川 鷹一郎(アサヒカワ ヨウイチロウ)と申す」  年の頃は雪成とそう変わらぬ筈だが、厳格な雰囲気を醸す青年だ。見目は確かに美しいのだが、雪成に言わせると面白味に欠けていそうな堅物との印象。だが、嫌悪と迄はいかぬ。  やはり、此の家なのだろうか。一先ず、雪成も厳かに深く頭を下げて。 「私は、一鶴雪成と申す者に御座います。此の家へ、お仕えする為に参りました」  言葉の後、再び上がる顔。雪成は、一族へ生まれたばかりに血に決められた伴侶を見詰めて。頭ひとつ分、高い位置にある顔。薄い覆いから見える其の顔は、己の心と同じく、霧が掛かる様にぼやけて見えたのだった。  雪成は、其のまま城内へと迎えられた。既に整った祝言の席。先程出迎えた重鎮等、他家臣、侍女等も控える大広間。名と血判の入った証書が仕上がると、互いに正式な伴侶と認められる。そして、最後に固めの盃を交わし、誓いを立てるのだ。
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