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 結局後日招待状を送るということでその場は収まり、数時間ユリアンと気まずい社交をこなしたツェツィーリエは帰路についた。予想もしないおまけ付きで。  てっきり王城に残るものだと思っていたユリアンが、一緒に帰ると言い出したのだ。もちろん夫婦なのだから断る理由などない。  そんなこんなで現在ツェツィーリエは、馬車の中で不機嫌顔のユリアンと向かい合い、非常に気まずい時間を過ごしている。  (多分、怒ってるのよね……)  彼の意向を無視してアデリーナの誘いを受けてしまった。不機嫌顔はそれからだ。  きっとアデリーナに近づいて欲しくないのだろう。  けれどあの場では他に選択肢などなかっただろうに。彼にこんな子供のようなところがあるとは初めて知った。  結局話しかけるタイミングも掴めないまま屋敷に到着した。  先に降りたユリアンがツェツィーリエに手を差し出した。  自分を置いて先に行ってしまうかと思っていたツェツィーリエは驚いたが、恐る恐るその手を取ってみると、彼のこの行動の意味を理解した。  ユリアンはやはり怒っていたのだ。  「旦那様!?」  ツェツィーリエが馬車を降りるとユリアンはその手を引いて早足で歩き出した。  そして出迎えてくれた執事と侍女がおろおろした様子でついてくるのを「呼ぶまで部屋には来るな」と厳しい口調で制した。  縺れる足で必死にあとをついて行くツェツィーリエを振り返りもせず、彼はひたすら二人の寝室のある方へ向かって歩いて行った。  部屋の前まで来ると、ユリアンは繋いでいない方の手で乱暴に扉を開け、部屋の中ほどまで進むとようやくツェツィーリエの手を放し向かい合った。    「アデリーナには関わらないでください。お茶の誘いについては私が断っておきます」  「な、なぜですか?」  そんなことしたら、アデリーナだけでなく、国王からも不興を買うのは間違いない。   どうしてそこまでしてツェツィーリエをアデリーナと関わらせたくないのか。せめて一言でも理由を言ってくれれば納得のしようもある。  言いづらいことなのだろうが、ツェツィーリエは彼よりも大人で、身のほどだってきちんと(わきま)えている。  「そんなに……そんなに私はあなたにとって恥ずかしい妻ですか?」  彼はツェツィーリエをどこにも連れて行かないし、誰にも会わせようとしない。  今夜だって王命がなければきっと一人で出席していたはず。それなのにやはりユリアンは答えをくれない。     「あなたはここにいてくれるだけでいいんです!」  「それでは旦那様の妻としての役割が果たせません。ただでさえ分不相応な私が嫁いできたことで、旦那様にはご迷惑をおかけしているのに!」  「誰があなたにそんなことを!?やはりなにがなんでもあなたを連れて行くのではなかった!」  「そんな────」   ツェツィーリエの瞳からこぼれ落ちた涙を見て、ユリアンの目が驚いたように見開かれた。  「ツェツィーリエ……私は……!」  「っ……申し訳……申し訳ありません……」  慌てて涙を拭おうとすると、再び手を引かれた。そしてそのまま寝台のそばまで来ると、ユリアンはツェツィーリエを抱き上げ、柔らかな敷布の上にゆっくりと下ろした。  いつものように大きな手のひらが頬を撫でる。困ったような顔をしたユリアンが、ツェツィーリエの気持ちを窺うように唇を寄せる。  こんな気持ちのまま抱かれるのは嫌だった。  けれどこの人は、きっとこうやってすべてを有耶無耶にしてしまいたいのだ。  目を瞑り、黙って流されていれば幸せになれるのだろうか。  ツェツィーリエにその答えをくれる人はどこにもいなかった。          
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