17 ユリアンの過去④

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17 ユリアンの過去④

 表通りからたった一本裏に入っただけで、こうも違うものか。  カビ臭い路地を歩きながら、ユリアンは思わず鼻と口を手で覆った。  育ちのいい自分にはこれまでも、そしてこれからも縁のない場所だったはず。なのになぜ自分はこんなことをしているのだろう。  すべてはあの……ツェツィーリエを見た日からだ。あの日からユリアンの世界は変わってしまった。しかもそれがなぜなのかがわからないから、自分でもどうしようもない。  路地は建物と建物の間、大人一人がゆったり歩けるほどの幅で、たくさんの裏口がこの道と繋がっていた。  中には酒場だろうか、路地にまで喧騒が響いて来る扉もある。だがそれがユリアンの足音を消してくれて逆に助かった。  ギードたちはしばらく進んだ先にあった扉の中へと入っていった。  (隠れ家かなにかか?)  ユリアンは護身用の剣に手をかけ、扉に近づき耳をすませた。  「次はいつになる?」  ギードの声だった。  「最近は注文が多いからね……このままじゃ製造が追いつかなくなるよ」  質問に答えたのは老婆のようなしゃがれた声の持ち主。注文ということは、ここはなにかの取り引きをしている場所だろうか。  「最近はお偉方の注文が多くてな。うまくいけば大儲けできるぜ?弱味だって握れるから色々と都合がいいんだ。だから早くしてくれよ」  「……使いすぎると廃人になっちまう。ほどほどにしとかないと、あんたもえらい目にあうよ」  「大丈夫さ。なんせ今度は王族にも伝手ができそうなんだ」  (王族?)  ユリアンは耳を疑った。  扉の向こうで交わされている会話の内容から推察するに、おそらくギードは違法薬物の売人だ。  ツェツィーリエの夫であるヴァルターはなんらかの理由で知り合って、ギードから薬を買っていたのかもしれない。そこまではよくある話だ。しかし王族となると問題の大きさが違う。  (一体誰のことを指している?)  ユリアンとて王族の血が流れているのだ。他人事では済まない。  「王族となれば支払いも確実だろうしな……そうそう、そういえばあのヴァルターって貴族、いい女を連れてたなぁ……法外な値段をふっかけて、借金のかたに差し出せって脅してやるか」  「ギードの兄貴、そりゃいい考えだ!あんな別嬪さんとヤれる機会なんて滅多にねえよ。たっぷり可愛がってやるか!」  「馬鹿。お前にゃやらねえよ」  そりゃねえよギードの兄貴、と同情を誘うような子分の声に、室内にいる人間たちが下卑た笑いを響かせる。  このとき、ユリアンの中のなにかがプツリと音を立てて切れる音がした。    
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