エレベーター前

1/8
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

エレベーター前

「お疲れさま」 名前を呼ばれて振り返ると、そこには隣りのグループの鍵谷さんが立っていた。 「あ、鍵谷さん。お疲れさまです」 「帰らないの?」 「え、帰りますよ。この格好見てください。どこからどう見ても帰る気満々じゃないですか」 「呼ばないとエレベーター来ないけどね」 そう言って、鍵谷さんがエレベーターのボタンを押した。そこで初めて気付く。 「あ、どうりで。待ってても来ないと思った」 あはは、と声に出して笑うわたしの隣りで鍵谷さんがため息を吐く。そして、コートのポケットに片手を入れながら、 「疲れてるね。大丈夫?」 「大丈夫ですよ。お腹すいたなぁ、何食べて帰ろうかなぁって考えてただけです」 「家で食べないの?」 「帰って作るの面倒くさくて…それにちょっと今日は何か美味しいもの食べたいなって」 「ふぅん」 右の頬に視線を感じた。鍵谷さんの視線はちょっと苦手で落ち着かない。 早くエレベーター来てくれないかな。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!