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エレベーター前
「お疲れさま」
名前を呼ばれて振り返ると、そこには隣りのグループの鍵谷さんが立っていた。
「あ、鍵谷さん。お疲れさまです」
「帰らないの?」
「え、帰りますよ。この格好見てください。どこからどう見ても帰る気満々じゃないですか」
「呼ばないとエレベーター来ないけどね」
そう言って、鍵谷さんがエレベーターのボタンを押した。そこで初めて気付く。
「あ、どうりで。待ってても来ないと思った」
あはは、と声に出して笑うわたしの隣りで鍵谷さんがため息を吐く。そして、コートのポケットに片手を入れながら、
「疲れてるね。大丈夫?」
「大丈夫ですよ。お腹すいたなぁ、何食べて帰ろうかなぁって考えてただけです」
「家で食べないの?」
「帰って作るの面倒くさくて…それにちょっと今日は何か美味しいもの食べたいなって」
「ふぅん」
右の頬に視線を感じた。鍵谷さんの視線はちょっと苦手で落ち着かない。
早くエレベーター来てくれないかな。
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