エレベーター前

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「何食べて帰るの?」 「何にしましょうね。何がいいかな。せっかくだから温かいのがいいかな。蕎麦とか?」 「渋すぎ…蕎麦って」 「こういう時、お酒が飲める人だと楽しいんでしょうね。仕事帰りの一杯、美味しいんだろうなぁ」 「オヤジじゃん」 「そう言えば新幹線側で安い立ち呑み屋さんを教えてもらったんですよ。黒霧島が一杯500円、安くないですか?」 「じゃあ、そこにすれば?」 「だから飲みたいより食べたいんです、わたしは。飲まない人は入り辛いんですよ、ああいう店は」 「意味わからん」 「あ、おでんとか食べたくなってきた。出汁のしみ込んだの」 「じゃあ、行く?」 「え?」 「俺の知ってる店で良ければだけど」 「え…」 話の流れでうっかり目が合ってしまった。鍵谷さんの目はいつも眠そうだ。腫れぼったい瞼に目尻が垂れ下がった、金魚みたいな目。何を考えているのかわからないから、少し苦手だった。だけど、そこがいいと隣りの席の桜井さんは言う。
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