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「どうせ意地張ってるんだろ、お互い。似た者同士なんだから」
ため息と一緒に聞こえてきた声に温もりを感じるのは、わたしの心が冷えきっているせいなんだろうか。
鍵谷さんの方を見ると鍵谷さんもわたしの方を見ていた。その目に、不覚にも心が揺れる。
「降りて」
グイッと二の腕を掴まれた。そのままエレベーターを一緒に降りる。冷たいエレベーターホールに向かい合うように並んだ。
「愚痴くらいなら付き合ってやるよ」
鍵谷さんがわたしから手を放した。その手をポケットにしまい、遠くに目を投げながら、
「おでんだっけ?それとも蕎麦にする?」
「………おでん」
鍵谷さんはわたしが答えるのを確かめてから、「ついてこい」と言って歩き出した。少し迷いながらも、その後ろ姿に引き寄せられるように歩き出す。
鍵谷さんの背中にわたしが追いついて、鍵谷さんが肩越しにそれを見た後で、
「……損な役回りだな」
「え?」
「はな、タレてるぞ」
「えっ!」
鍵谷さんの大きな手のひらがわたしに向かってゆっくり差しのべられた。反射的に両手で顔を覆い、目を瞑る。
「触らねぇよ、汚い」
「ちょっ!女の子に言うセリフですかっ」
「うるさいうるさい」
「うわ、テキトー」
「いいからさっさと来い、置いてくぞ」
「もうちょっと優しくできないんですか?」
歩き出していた鍵谷さんが少し距離をあけた所で振り返った。そして、
「充分だろ」
苦手なはずの眼差しを向けられているはずなのに、どうしてなのか胸が高鳴る。
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