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「お前は私が人を喰らうと教わったのか?」
指先から伸ばした蔓でしゅるりと少女の頬を撫でると、微かに口角が引き攣った。
振り払おうとする両手にもしゅるしゅると絡みつき、抱き寄せるようにして畳の上に押し倒す。
「こうやって血を吸うんだよ」
細い針のような棘が少女の鎖骨をなぞり、薄っすらと紅が滲んだ。葉の表面の如きざらりとした舌で舐め取られ、痛みのかわりに甘美な痺れが抵抗を溶かしていく。
「それで? その取引の代償に、お前は何を捧げる」
「……逃がして、くれるん?」
答えず、胸元に顔をうずめた。元より喰い殺すつもりはなかったが、逃がしてやるつもりもなかった。
自分の宿命を悟りながら、しかし親に逆らうことはしなかった。逃げ出そうとはしなかった。聡明さとは裏腹に無力な子供であるのが可愛らしく、上気した頬は椿のように艶めかしい。
「弟の仇を討ってやるのもいい」
木々が擦れ合うような声で囁くと、睫毛に毒を垂らされたように、少女の瞳にじわりと涙が浮かんだ。
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