ファルコンとポポ

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ファルコンとポポ

真っ暗でなにも見えない……。 暗くて、狭くて、聴こえてくるのは、 俺をここに閉じ込めたヤツ(ニンゲン)の声だけ…。 一日に一度、口に無理矢理飯を押し付けられて食うだけ食って、なにもせずに寝るだけの日々…。 あぁ…なんて、退屈でつまらないんだ……。 いっそのこと…… 死んでしまいたい……。 「 ふぁ〜〜 」 「 !!?? 」 けれど、そんな゙ つまらない日々 ゙を壊してくれる者が現れた。 肌に感じる暖かくなって来た、ポカポカとした日だと思う。 すぐ近くで聞こえてきた声に驚けば、大きな欠伸をした小さな子供は、俺の方に声を掛けてきた。 「 あなた…だぁれ……? 」 「 ………… 」 「 んー……おなまえはぁ? 」 その質問に、態々問う必要はあるだろうか。 此処から出られない俺を、嘲笑いに来た連中ではないか? 開こうとした口を閉じて、その日はなにも話すことが無かった。 「 ねぇ、きいてるの?あなたはなんで、そんなおおきなクチをしてるの? 」 「 ………… 」 「 あなたはなんで、そのなかにはいってるの? 」 「 ………… 」 「 あなたのあしは、なんでそんなにとがってるの? 」 「( しつこい……… )」 黙っていればその内いなくなる。 そう思っていたはずなのに、3秒に1度は告げられる質問の多さに、しつこさを通り越して呆れてきた。 「 わかったわ!あなたは、かいじゅーなのね! 」 「 ……ちがう 」 「 しゃべったわ!!あなた、しゃべれるのね!? 」 「 っ……… 」 つい、否定してしまった……。 かいじゅうってなんだよ……。 確か…俺をここに閉じ込めたヤツが、最近そんなテレビってのを観てたのを聞いたけど、それに言ってた言葉をモロに受け止めたのだろうか? 誰だ…… このガキに、変な言葉を教えてるのは…。 「 かいじゅうみたいな、こえね! 」 「 低いって言ってくれ。あと俺は…かいじゅうじゃない 」 「 じゃぁなに? 」 他の連中と違って嘲笑って離れることもなく、 つい最近まで言葉足らずだったこの子供に、俺は自分の名前を名乗るのか…。 あの人すら、呼ぶことが無くなった名前を…。 いや、かいじゅうと言われるのは嫌なんだ… それなら、名乗るしかないか。 「 ファルコン……そう、呼ばれている 」 「 ふぁみ、こん? 」 「 ファ•ル•コ•ンだ 」 「 ふぁざこん? 」 「 ………もういい 」 嗚呼、駄目だ… まともに話すら出来ないなんて…。 いや、声からして最近まで子供だったんだ。 言えなくて無理はないが、だからって…。 はぁー、と深い溜め息を吐いていれば小さく鈴のような声をした子供は、何年も呼ばれなかったその名前を口にした。 「 ふぁるこん!わかった!あなた、ファルコンね!!わたしは……なんだろ? 」 「 ……た…、ぽぽ…… 」 「 ん? 」 「 ポポ……君は、ポポだ 」 あの人がそう呼んでいた…。 確か、そういった名前の子だったと思うと名前を告げれば、少女はまた一層嬉しそうに答えた。 「 ポポ!!かわいいなまえ!わたし、きょうからぽぽ!あなたは、ファルコン!へへっ 」 「( なにが嬉しいのか、俺には分からない )」 この真っ暗な中で、只聞こえてくるポポの声は、 朝日のような暖かさでもなく、昼間の日差しのように暑いわけでもなく…。 その声が聞こえるだけで、笑いかけて話をするだけで、 俺の暗闇に一筋の光が差し込んで来た気がした。 「 ファルコン、あのね!さっきすずめたちが話していたんだけど… 」 「 嗚呼… 」 いつものように彼女の話を聞いていれば、数回羽ばたく音と共に嫌っている者達の声が聞こえてきた。 「 これはこれは、゙森の王者゙と呼ばれていた貴方様が、足元にいる小さな小娘と話してるなんて…滑稽じゃありませんカァー 」 「 無様で、哀れで、可哀想なファルコン様 」 「 え……? 」 「 黙れ…… 」 嗚呼、雨が無い日はこうして嫌味を言いに来る連中がいるから嫌いなんだ。 少し困惑したような声をするポポに、俺の過去なんて聞かせる気もないし、知ってほしくは無い。 「 おやおや、ご機嫌斜めですカァー? 」 「 ファルコン様、貴方が怒ったところでその鋼鉄の檻から出る事は出来ませんのにねぇ?この餓鬼をどうしようが…手出しなんて 」 「 きゃぁっ!!いっ…! 」 「 止めろ!!彼女には手を出すな!! 」 なにが…如何なっている? 声だけじゃ、状況が把握出来ないが… ブチブチとなにかを抜くようなそんな音に、身体の血の気が引いていく。 「 イタイッ…!!イヤァァッ…ヤメ、て… 」 「 カァー!!! 」 「 カァーカァー!ファルコン様、なにも見えない貴方になにができましょうか? 」 何故…俺じゃなく、彼女に手を出すんだ。 いや、分かっている… こいつ等も俺に手を出すことが出来無いんだ。 この目の前にある、鋼鉄の檻によって…。 「 っ…分かった。時間になったら渡せばいいんだろう 」 「 カァー!理解が早くて助かりますよ 」 「 流石、ファルコン様。無駄な血は流したくないようで…フフッ、では…カラスがなく頃に…もう一度お伺いいたしますね 」 羽音が遠くに聞えれば、舌打ちを漏らす。 「 チッ…鴉風情が…… 」 「 うっぐ…ひっく…… 」 「 っ!!ポポ、無事か!?怪我してないか!? 」 血の匂いはしないから、怪我はしてないはず… だが、彼女が泣いてるって事は分かる為に問えば、泣きながら告げた。 「 …だい、じょうぶ…… 」 「 そうか、すまない……俺は、助けることすら出来ないずに… 」 なにも見えない…なんて、そんなの言い訳に過ぎないぐらいに、 俺は根本的に助けることが出来ない。 それが悔しくて、奥歯を噛み締めていれば彼女は問い掛けてきた。 「 んん…へいき……。ねぇ、ファルコン… 」 「 なんだ? 」 「 なんで…あなたは、森の王者と呼ばれていたみたいなのに…今は…゙その中゙にいるの…? 」 「 っ……!! 」 ニンゲン…と呼ばれる者達が造ったとされる檻の中。 何故、俺はここにいる…? いつから俺は…暗い中で生きてきた? 「 ……すまない、分からないんだ 」 「 わからない? 」 「 嗚呼…俺は、気付いたら真っ暗の中にいて、此処にいる。最初は出ようと暴れたさ… でも、身体が傷つくだけで無意味だと知ってな…出る事すら諦めたんだ 」 俺は、恐らくここに来る前に事故にあった。 記憶が無くなる程の大きな事故なのだろう…。 あの鴉達が゙ 森の王者だった ゙と言うけれど、果たしてそれも本当かどうかも分からないぐらい、記憶にない。 記憶に無いからこそ、 俺は誰で…なんの目的でここにいて… なんの為に生かされてるのかも分からないんだ…。 ゙ 出してくれ!!俺を…ここから出してくれ!! ゙ ゙ ファルコン…出たところで、御前はどうする? ゙ ゙ は……? ゙ ゙ 御前を…出してやることは出来ない ゙ あの人が言った意味を理解できないまま、長い年月が過ぎて行った。 もう、出る事も諦めたし今更、それを望むはずがないと…思っていたのにな……。 「 そっか…じゃ、いつか…私と一緒にあの空を飛ぼうよ!! 」 「 飛ぶって…? 」 「 だって、ファルコンには他の誰よりも大きな羽があるじゃない!だからね、きっと飛べるわ!! 」 「 飛ぶ…なんて、したことも…考えたこともないな 」 暗い中で、どうやって飛べばいいか分からないし、羽を広げてみてもその先は冷たい石壁に当たって擦りつけて、痛むだけ。 この中で飛ぼう、なんて考えたことないから彼女の言葉に、無意識に笑ってしまった。 「 出来るわ!!きっと、ファルコンなら! 」 「 ふはっ、なら…先に小さなポポが飛べる日を楽しみにしてる。俺はその後でいい 」 「 だめよ!一緒じゃなきゃ意味ないの! 」 「 そうか…なら、その日を楽しみにしようとするかな 」 死ぬ事を求めていた俺が… いつか君と一緒に、記憶にない空を飛ぶことを夢見るなんて思わなかったな…。 このボロボロで傷だらけの羽で、空を飛ぶことは出来るだろうか…。 いや、君が出来ると言うなら俺はそれに答えよう。 「 今日から特訓ね!わたしは、お腹いっぱい陽の光を浴びて、お水をいっぱい飲むわ! 」 「 腹が空きそうだな… 」 「 平気よ!ファルコンみたいに、ネズミを食べないもの 」 「 そうなのか……。まぁ、今日の分はアイツ等に上げることになったが、いつか食べてみるといい。柔らかくて美味いぞ 」 「 う、うん…… 」 そういえば、俺はいつも質問をされてる側だからポポの事は何も知らないな。 何処から来て、なんでずっと隣りに居てくれるだ?   何故そこまで俺に関わってくれるんだ? 「 なぁ、ポポ…… 」 「 なぁに? 」 「 君はどんな羽根の色をしてるんだ? 」 「 んー……お日様みたいな、黄色だよ! 」 「 きいろ…さぞかし、可愛いのだろうな 」 君の事だ…きっと可愛いに違いない。 ふっと笑った俺に、ポポは一瞬無口になってから焦りを見せる。 「 ふぁっ!?か、可愛くないよ!ファルコンこそ…か、かっこいいよ…! 」 「 俺は老いぼれなだけさ。ボロボロだしな… 」 「 そんなことない!ファルコンは、格好いいよ!すごーく!! 」 「 ………!! 」 その言葉は、俺の暗闇を照らすには十分な程に光だった。 「 やっぱり君は…俺の太陽だな 」 「 わたしは…ポポよ? 」 「 まぁそうなんだけど… 」 やっぱりちょっと頭のネジが抜けてる部分も、君の可愛さだと思っているよ。 「 カァー!カァー!! 」 「 カラスは何故鳴くの?ファルコン様のご飯をもらいに来たからですよ! 」 「 分かってる。ほら、持っていけ 」 「「 カァカァ!! 」」 日が傾く午後5時頃と呼ばれる時間。 カラス達は、この鋼鉄の檻の前に集まっては、俺に与えられた飯を貰いに足元に集まってくる。 与えなければポポが怪我をする… それに俺は、動かないからそこまで消費してないし、食う必要もないからな…。 僅か2cmの隙間からネズミを押し込んで与えれば、カラス達はそれを取っては醜い争いのように奪い合って、立ち去っていく。 あの様子なら… また来るだろうな……。 「 ファルコンは、お腹好かないの? 」 「 空かない…。だから、気にしなくていい、 」 「 そっか…… 」 何故、君が悲しそうにするのだろうか? 俺には…君の顔が見えない方が、 ずっと悲しいのにな……。
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