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周りの喧騒は垂れ流すBGMだ。そういう風に流していないと、元気が有り余っている中学校ではうるさくて聞いていられなかった。3年生の教室は校舎の1階にあり、中庭に面している。
昼休みの今、生徒の数人が上の階にいる2年生や1年生と大きな声で会話している。それだけでなく、教室でお弁当をとる者たちの会話、食べ終えて廊下で遊ぶ生徒たちの走り回る音やはしゃぐ声、スピーカーから流れてくる放送部が流す音楽が混じり合わさって、へたくそなオーケストラの演奏のようになっている。
耳をふさぎたくてもショートボブの髪では耳を隠すことすらできない。
太陽が差して輝かしいはずの景色は、椿にはいつも灰色がかって見える。
椿は、教室の中央当たりの一番後ろの席に座り、袋を開けて取り出した玉子サンドにかじりつく。クラスメイトのノゾミが椿の前の席に座って後ろをむき、カオルは椿の横の席を借りて座っている。2人は母親に作ってもらったらしいお弁当のおかずを口に入れながらも、カオルが好きだという少女漫画のこと、ノゾミが憧れる女子高生モデルのことなど話は止まらない。
椿は咀嚼しながら、そんな2人の様子を焦点の合わない目で見る。
何で、そんなに盛り上がれる話があるんだろうか。楽しそうに話をしてみたいと思うものの、椿の気持ちは何を聞いても揺れ動かないことが多い。
そのせいか、一緒にいるのに見えない壁を感じてしまう。
椿は言葉が切れたタイミングで相槌を打ち、内容が耳に入らずに素通りしているのをごまかした。
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