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僕は自分の中に芽生えたあらゆる感情を寄せ集めてから、勢いよくドアを開け放とうとドアノブを掴む。その時、彼女の甘い喘ぎ声が僕の聞いたこともない男の名前を愛撫するように叫んだ。
そんな彼女の声が耳に届いた瞬間、僕は不思議なことに彼らに対して吐き出すべき言葉を見失ってしまった。
ついさっきまで、あらゆる感情が頭の中で彼らを突き刺そうとする鋭い言葉に変わっていたはずだった。もうすでにその引き金に指をつける段階まで進んでいたのだ。しかし、ありとあらゆる言葉たちは、頭の中を空き巣に入られたみたいに簒奪されてしまっていた。
僕は掴んでいたドアノブから手を離した。この扉を開いて彼らを糾弾する気にもなれなかったし、彼らの世界に自ら踏み込んでいく気にもなれなかった。
玄関に戻り彼女から貰ったコンバースのスニーカーを履いて外に出た。
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