浮ついた気持ち

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 彼女と別れてかなりの時間が経った後、僕が喫煙所待ちの列に並んでいる時にようやく自分の過ちに気が付いた。それは誰かの落とし物の中身を僕がうっかり見てしまったみたいに、出し抜けに発覚したことだった。  僕はおそらく、傷つくべき時に傷つかなかったのだ。  彼女の浮気が発覚した時、僕は彼女に対して芽生えた気持ちに蓋をして言葉にしなかった。それが間違いだった。芽生えた気持ちがなんであれ、僕は彼女に対して言葉を吐き出すべきだったのだ。それが怒りであれ、悲しみであれ、あるいは殺意であっても。  それをしなかったから、僕はここから身動きができずに停滞し、空虚な気持ちを抱きながら生き続けなければいけなくなってしまった。  後ろに並ぶ人から押されるように、僕は煙草の煙で充満している喫煙室へと足を進める。僕は事務的に煙草を口につけてから、大きく息を吸って吐いた。  ぷかぷかと浮かぶその煙はどこにも向かうことはなく、いつの間にか消えてなくなってしまった。
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