5人が本棚に入れています
本棚に追加
「流石、司だ。決闘を申し込むなんて」
困った。僕はこの状況が理解できていない。
洋一郎が紙を渡してくる。
僕は慌ててそれを見る。
『君より僕の方が運動神経が良い。もし僕がそれを証明できたら、付き合って欲しい』
洋一郎・・・。
「やって」
「え?」
「それに乗って、何かやって見せて」
いやいや、無理に決まっている。
そもそもまだ膝で立つことも出来ないのに。
それに、何か怒っている。もしかして、自分より劣っていると言われたから?
そうだとすると、中々の負けず嫌いだ。
「頑張れ!」
本当、こいつの事が嫌いになりそうだ。
僕は覚悟を決め、一つ深呼吸をする。
バランスボールに手をつく。
そして、膝を載せた。
両手でボールに触る。揺れる。
で、ここで・・・。
僕は左右に手を伸ばし、バランスを図った。
思わず洋一郎と馬場ちゃんを見る。
二人とも口を開け、そして、「すげー!」と叫んだ。
僕は嬉しくなり、一色さんの顔を見る。
一色さんは眉をひそめ、僕を見た。
「えっと・・・」
僕がそのまま一色さんを見ていると「次は?」と聞いてくる。
洋一郎を見ると、「いけ」と頷く。
そうだ、何だか行ける気がしてきた。
僕は、再びボールに手をつき、右足をボールにつく。そして、立とうとした瞬間、右に転がった。
「オー・マイ・ゴッド」
洋一郎が頭に手を当て、天井を見た。
一色さんを見ると、顔を逸らし下を向いている。
え、笑った?
洋一郎が嬉しそうに目を輝かせる。
僕は複雑ながらも、少し嬉しかった。
しかしまた顔を仏頂面に戻し、「もう行くね」と振り返る。
「私、手紙で告白する男嫌いなの」
そう言って体育館を出て行った。
「なんだ、お高くとまりやがってよー」
「まぁ、あの子なりの大変さもあるのさ」
と、馬場ちゃんが言った。
「こうなったら、絶対にボールの上に立とう。
今度は、感動を!」
またこいつは演技っぽく僕にそう言った。
でも、僕も悔しい。
それに、やっぱり笑った顔が見たかった。
最初のコメントを投稿しよう!