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それからまた一ヶ月が経った。 あれから練習を重ね、一度だけ、ボールの上に立つことが出来た。 運動音痴が、やれば出来ると証明できるかも知れない。 僕は一色さんに休み時間声をかけた。 「あの、今日の放課後、体育館に来て欲しい。次は、成功させるから」 一色さんは真顔でこちらを見て、何も答えなかった。 放課後。 僕はもう相棒と呼んでいるこのボールと共に一人体育館で待っていた。 今日は馬場ちゃんも洋一郎もいない。 僕が来ないで欲しいと頼んだ。 来るかな。 来るといいな。 そして、一人、中に入ってきた。 一色さんだった。 こちらに向かって歩いてきて、僕の前で止まる。 僕は頷き、ボールの外側に手を置いて、膝をついた。 四つんばいの姿勢になり、安定する場所を探す。 ここ、という所が見つかり、両足をゆっくりボールの上にのせる。 両手・両足がボールの上に乗った。 ゆっくり。 片手をあげる。 いける。 そのまま、膝を伸ばした。 ボールが揺れる、僕は慌てて安定を・・・。 目の前の景色が変わる。 僕は、そのまま前に転げた。 ボール後ろに転がっていく。 誰もいない体育館。 ただ、惨めだった。 そんな体育館に大きな拍手の音が聞こえる。 その拍手は、たった一人のモノだった。 一色さんは暫く拍手を止めなかった。 僕は立ち上がり、頭を下げた。 拍手が止み、一色さんがボールの元へと歩いて行く。 そして、手で僕を先ほど一色さんが居たところへ促す。 同じような動作。 手を置いて、膝をつく。 そして、一色さんは安定感抜群で、ボールの上に立った。
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