エピソード1

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 だが、父親はそんなことに気を病むこともなく、母親は僕にはもったいないと言って、周りからの声に耳を貸さなかった。  しかし、芽衣に父親はポツリとこんなことを言った。 「芽衣、お前には黙っておこうと思ったんだが、いずれわかるかもしれないから告白しようと思ってる。もしかすると、芽衣は私の子ではないかもしれない」  父親はまるで、天気の話をするみたいに、さらりと言った。芽衣はその当時は高校生だった。思春期の真っただ中だったが、父親は話すタイミングを考えていなかったのか、つい口をついて出た。その父親の鈍感さが悪い方向に働くことなど、芽衣も父親も予想はできなかった。  その根拠を聞いてみると、父親は自分の血液型がBで母親がABなのに、o型の子どもが生まれる可能性はないと言うのだ。つまり、芽衣の血液型はoであるから二人の間の子どもではないというのだ。  頭を鈍器で殴られた感覚だった。青天の霹靂とはよく言ったものだが、十代の芽衣にはあまりに重い内容だった。  それから父親は出し抜けに、母親が不倫をしていると言った。母親が不倫?信じたくなかったが、それもあり得る話だと思った。  父親は元々、男としての器量に欠けていた。その父親に十五年以上ついてきた母親が父親一人で我慢できるはずもない。  クラブで様々なお客の相手をしていたら素敵な男性に靡くのも時間の問題だった。  確かに母親は休みの日も、臨時で仕事が入ったと言っては外出して行ったりしていた。その行動は、芽衣には仕事熱心に見えたが、もしかすると、客の一人と店以外のところで会っていたのかもしれない。
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