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エピソード3
黄昏時のラブホテル街。夕焼けが眩しくて、窓のサンバイザーを下ろさないと、目を焼き尽くすかのような鮮やかな赤が覆う。
車の中で小気味よく、クラシックが流れていた。祐美さんはカメラのレンズを右斜めの一軒のラブホテルに向けている。さながら狩猟するハンターを思わせた。
対象者がルンルン気分で、互いに腕を組んで出てきた。祐美さんはだらけていた姿勢を正すと、シャッターを切った。助手席にいた芽衣は予備のフィルムを携帯していた。すぐに手渡せるようにしていた。
探偵の新人である芽衣は、証券会社時代と比べて、探偵が意外に神経を集中して使う仕事であることに戸惑いを覚える毎日だった。
そんなことも露知らず、対象者のカップルは夕闇の中に漏れる灯りの方向へ歩いていった。
「今日は撮れ高だ。いい写真が撮れた」
祐美さんは満足そうに微笑む。
「不躾な質問だけど、富永さんは不倫カップルを見て、どう思う?つまり、いけないことだと思う?それとも、仕方のないことだと思う?」
探偵事務所まで戻る途中の車内で、ハンドルを握りながら祐美さんが唐突に訊いた。
「私は、いけないことだと思います」
「あら、じゃあ、やっぱり、富永さんはいけないことを自分でもしたと思ってるんだ」
「はい」
「そんな神妙にならないでね。別に意地悪のつもりで訊いたわけじゃないから。私は旦那の不倫が原因で離婚したの。子どもはどんなことがあろうと、引き取った。親権を得るのは簡単だった。養育費の支払いを拒んだら、親権を簡単に譲ってくれた。その時、私はこの人と別れる運命だった。いえ、別れなければならなかったって思ったの」
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