エピソード3

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 辺りはすっかり暗くなっていた。繁華街を抜ける頃には赤提灯やネオンを求めて、帰宅途中のサラリーマンたちが闊歩していた。 「不倫はいけないですね。誰も幸せになりませんから」  芽衣は力なく答える。私は不倫について、とやかく言う資格はない。母親が父親と芽衣を苦しませた不倫という背徳的な行為を芽衣自身がやらかしていたという事実に愕然とする。まだ愕然とするだけに留まるならいいが、芽衣はその後、自ら命を絶とうとしたのだ。こんな無責任な女は一生、幸せになんかなれない。 「でもね、不倫する人をフォローするわけじゃないけど、これって人間の性だと思うの。理性ではわかっても理性のタガが外れることってあるじゃない。たとえば、横断歩道で信号が赤なのに、車の往来がないことをいいことに、青に変わる前に渡っちゃうだとか。そういった些細なことが大きくなったのが、たとえば、不倫だと思うの」  言い得て妙である。芽衣は思わず、彼女の横顔を一瞥する。彼女は涼し気な表情のまま運転していた。  祐美さんはきっと不倫を心の底から憎んでいる。不倫について話し出した途端、祐美さんの運転は乱暴になった。  芽衣の父親は堅い銀行員だった。繁忙期になると、帰りが10時を過ぎることもあった。芽衣は母親がクラブに行っている間は独りぼっちだった。  芽衣は元来、友だちは少なかった。だから、遊ぶものといえば、ぬいぐるみや人形だった。それに飽きるとテレビでアニメを鑑賞したりした。
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