エピソード3

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 芽衣はまず、父親が可哀想だと思った。だって、母親はもう、父親を愛していないとわかったから。  芽衣だって、女である。男子がどれだけ傷つきやすいかはわかっている。男子は大人になっても少年のように心が繊細なのだ。  父親はいまどきの男子からは程遠く、母親の言いなりでした。家事のほとんどを母親の代わりにやっていました。まるで母親と父親が入れ替わったようでした。  母親はことあるごとに父親の陰口ばかり叩いていました。芽衣は父親の味方でした。父親は仕事の合間を見つけては、芽衣の遊び相手になっていました。  そんなとき、芽衣は学校帰りに、見知らぬ男性と母親が車に乗り込むところを目撃してしまったのです。男性は馴れ馴れしく、母親の肩に手を回し、助手席側のドアを開けていました。  芽衣は電柱の陰に隠れて車が走り去るところを見ていました。芽衣は父親に報告しようか迷っていました。父親はきっと見間違いだと一蹴すると思いました。  だけど、そのことを話すと、父親は驚く風もなく、ため息をついて頭を抱えました。  父親にどうしたの?と訊いても、父親は魂が抜けたように、フラフラしながら自室にこもってしまいました。  あとでわかったことですが、父親は母親がクラブの常連客といい仲になっていることを知っていました。  不倫です。明治時代なら姦通罪です。確かに黒船来航以来、西洋文明が入ってきてこの国は恋愛や結婚に関して自由になりました。ただ、その分、節度が緩んできたように思います。
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