エピソード3

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 だから、父親と母親がたまに家の中で顔を合わせることがあると、ケンカが絶えませんでした。  芽衣は父親と母親が仲良くなってほしいと切に願っていました。  唯一の友達である華奈ちゃんが、願い事を叶えたいなら、土手に咲いているタンポポを採取しなければならないと言いました。  学校に行く途中に土手があるが、確か、あそこは一画が他人の私有地だ。勝手に入って、タンポポを取ったら絶対に怒られる。それにそのことが母親にバレたら、とんでもない折檻を受ける。そのことを想像しただけで、芽衣は二の足を踏んでしまいます。  でも、どうしても仲良くなってほしい。仲良くなってくれれば、芽衣は欲しいものなんて何もありませんでした。  芽衣は華奈ちゃんの勧めで土手にタンポポを取りに行くことを決心しました。  両親が仲良くなるなら多少の代償は払わなくてはなりません。  忍び込んで取るならなるべく、明るくない時がいいだろうと考え、夕方になるまで待ちました。思い立ったら何も考えず、行動するところが長所でもあり、短所でもありました。  芽衣は一心不乱に土手のタンポポを採取しました。薄闇の中、暗さが目に慣れているうちに取れるだけ取って、タンポポを部屋の花瓶の中に生けて、願い事を祈るのです。  段々、日が暮れて、汗が額に浮かび、そして、腋の下にじっとりと汗をかいてしまいました。もうこの辺でいいだろうという程度がわからないまま、時間だけが過ぎました。  そのとき、突然、芽衣に向かって懐中電灯の明かりが差し込み、御用となったのです。芽衣は花泥棒として地主に捕まりました。  その後、芽衣は小学生で悪意がなかったという理由で注意だけに留まりました。しかし、本当の地獄はここからでした。  母親は烈火のごとく怒りまくり、一日中、物置に芽衣を閉じ込めました。  今でいえば児童虐待にあたります。近所の目もあって、芽衣が騒がないように、母親は唇にガムテープを貼りました。
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