エピソード1

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10日前  芽衣は大学卒業後、都内の証券会社に就職した。金融関係に特段、興味があったわけではないが、お金を扱う仕事には憧れがあった。それは父親が真面目な銀行員だったことに起因しているかもしれない。  父親っ子だった芽衣は、父親を尊敬していたし、大好きだった。  小学校から帰って、父親が早くに帰宅していた時は嬉しくて、父親の胸元に飛び込んだものだ。  父親はそんな、甘え上手な芽衣をいたく、可愛がった。  それに引き換え、母親は友人から誘われて手伝いに行ったクラブの仕事にハマり、今や八面六臂の活躍をしていた。  父親は母親がクラブ勤めをしていることを咎めることはなかった。母親はそれなりに美人で、父親とは職場結婚だった。元々、母親は社内でも高嶺の花で、うだつの上がらない父親とはつり合いがとれなかった。  そんな母親が父親に振り向いたのは、母親がヒールを折って、道端で転んで怪我をして動けなくなっているところを介抱して、負ぶって病院まで行ってくれたことだ。父親は確かに冴えなかった。だけど、優しい一面があり、痒いところに手が届く優しさが母親のハートを射止めたことは確かだ。  やがて、二人は晴れて夫婦になった。結婚を機に母親は寿退社をし、父親は会社に残った。  その後、父親は周りの同僚や上司、取引先の人たちから祝辞を受けた。その一方で、きっと母親は父親の財産目当てでいっしょになったに違いないと囁かれた。というのも、父親は代々、地主の一家で父親の父は山を所有していた。その山は多くのディベロッペーに注目されていた。つまり、宝の山を持っている父親に母親が接近するのも不思議ではなかったのだ。
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