母が癌?

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母が癌?

確か、私が高校3年生の秋頃だった。 いつになく父親が真剣な顔で、母親に気付かれないように少し小声で、 「お母さん、癌かもしれらんから大事にしたらなあかん…。」 「えっ? お母さん、癌なん?」 「まだわからんけど…。」 父親の表情が暗くなっていった。 その表情から、詳しいことはまだわからないけれど病気なのは間違いなかった。 病気だから? 癌かもしれないから? もしかしたら、死んでしまうかもしれないから? だから、大事にしたらなあかん? いやいやいや、それなら普段から大事にすべきでしょう。 私は父親の言葉に呆れてしまった。 もし、本当に癌で急死でもしたら、今までの暴言や暴力を悔いるのだろうか? それとも、それでも大事にしてきたと思うのだろうか? その心のうちはわからない…。 母親は、しばらく入院した。 最終的には、子宮筋腫で癌ではなかった。 病気で不安はあったが、回復するまでは父親に大事にされ、母親にとっては今までにないぐらいの穏やかな時間だったに違いない。  
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