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元気が出て良かった。昨日みたく雨に濡れそぼったあんな天ヶ瀬さんはもう見たくない。
「でね、大事なのは、ええと。ここからで。私また恋をしても大丈夫だって思えた。そして、その人と幸せになるのが本当の意味で見返す事になるんだろうなって。だから──」
妙に熱ぽっい瞳で僕をみる天ヶ瀬さん。
思わずドキリとするが、次の瞬間には天ヶ瀬さんは瞳をぎらつかせて。
「だから、早く樹に宣言布告を言いたくて」
「──宣戦布告とはいいね。その姿勢。嫌いじゃないよ。むしろ好ましい」
そうだ、最初出会った時も天ヶ瀬さんは折れなかった。それが『良い』と思った。
そういうところも気に入っている。僕がグッと親指を立てると天ヶ瀬さんは嬉しそうに笑った。
「ありがとう。よしっ。由貴君も居てくれるし。怖い物なんてもう何もない。それに、それにね」
と、言ってから何やら明後日の方をみて。ゴニョゴニョと口篭ったあと。
薄っすらとまた頬を染めたタイミングに──丁度スタッフの人が来て。
「早く由貴君とちゃんと恋したいしっ」
「お客様、そちらの食器お下げしてもよろしいでしょうか?」
声が重なった。
天ヶ瀬さんの言葉は聞き取れなかったが、天ヶ瀬さんはスタッフの人に「は、はいっ!? もちろん、喜んでっ」と、居酒屋みたいな返事をしていた。
スタッフが食器を持って、下がったタイミングで聞き直した。
「ごめん。麻希ちゃん今、なんて言った? 聞きとれなくて」
「……なんにも言ってない。絶対に何も言ってない。えーと。言ったのは『ここで樹に処刑宣告を出すのもアレだから場所を変えよう』って、言ったのっ」
と、頭を抱える天ヶ瀬さん。
因みに。
宣戦布告から処刑宣告に変わっていたのに気づいたけども、それはやる気の表れと思って突っ込みは入れなかった。
「確かに。ここじゃちょっと人の目もあるし。場所を変えようか」
天ヶ瀬さんは何やら「なんか私って、タイミング下手なのかなぁ」とか。独り言を言っている隙に、テーブルの端の伝票をそっと手に取って。
「少し待ってて」と伝え、支払いを済ませようと席を立った。
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