71人が本棚に入れています
本棚に追加
聞こえなかったふりをして進もうかとさくらが考えたのをよそに、弥平が侍の声掛けに返事をした。
「はあ、我々のことですか」
「見ない顔だな。どこへ行く」
「少々……知人のところへ」
「そこの……女子? は何だ。奇妙な格好で」
「ああ、ちょいと酷い目に合ったようでして」
さくらは小さくうなずくと、顔を見られないように俯きがちに弥平の背に隠れた。
「酷い目とは? 野盗か? どんな奴らだ」
「覚えてねえみたいでしてね、まあ、とにかく、お構いなく」
「そういうわけにはいかない。近ごろ野盗や破落戸の類には手を焼いているのだ」
面倒な者に捕まってしまった。こんなところで無駄な正義感を出されてもありがた迷惑である。さくらは顔をしかめた。走って振り切るか。だが失敗すればもっと面倒なことになるのは明らかだ。万事休すかと思われたその時。
「お前、善吉か?」
侍の背後から来た男に声をかけられた。驚きと嬉しさが入り混じったような顔をしてさくら達を見ている。
「おお、やはりそうだ! 弥平もいるではないか! 二人ともこんなところで何してる」
「せ、関口先生!」
最初のコメントを投稿しよう!