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「なあに、今度は王政復古の算段がつけば、徳川は名実ともにいち大名になりゆう」
「そがいに悠長なことを言うておって大丈夫かのう」
「急がば回れ、言うろう」
おっ、と坂本は鍋の中に視線を戻した。軍鶏の色が変わり、食べごろになったことを示していた。
「ほれ、食うがじゃ」
坂本は軍鶏を取り分けたが、中岡は固く口を結んでいる。気にせず、自身は軍鶏を口に運んだ。肉汁とだしが絡み合い、絶妙な味が広がった。
中岡は小さく溜息をつくと、「それにしても」と話題を変えた。
「やっぱり、ここは危ないんじゃあないがか。ほら、昼間来とった御陵衛士の伊東という男。あん男、元々は新選組じゃ。実は内通してここを漏らしてるいうことも考えられんか」
「それはなかろう。あん男は、新選組が嫌あになって別れたいう専らの話じゃ。それに、儂の話に共感しとったがぜ。そがいに悪う男には見えんかったぜよ」
「百歩譲ってそうだとしてもじゃ。新選組だけやない。見廻組やらなんやらも、嗅ぎ回っとるんと違うか」
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