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彼の名は『ヴァン』である。ヴァンは腹違いのシェルの弟にあたる。ヴァンは幼いながらも現在の王位継承権、第一位の王子であった。つまり、将来シェルとヴァンの父親である現国王の跡取り、となるわけだ。
ヴァンは常々、自分とは違う生活をしていると言う姉の存在が気になっていた。そのためこっそり後宮内を抜け出し、城内にある離れへとやって来た。シェルは始め驚いたものの、
『ここまで良く来たわ。狭いところだけれど、どうぞ上がって?』
そう言って、ヴァン王子をもてなしたのだった。この頃はまだ母である王妃も生きており、三人で小さなテーブルを囲んでお茶を飲んで談笑した。
普段から国王になるための教育を受けさせられていたヴァンにとって、この離れでの時間はかけがえのないものへと変わっていくのだった。
「王妃様が亡くなられて、もう三年なんだな……」
ヴァンは幼いながらもしっかりとした声音でそう言う。十歳になったばかりのヴァンにとって、王妃が亡くなった日の衝撃は忘れられなかった。今でもひょっこり顔を出し、あの少し苦いお茶を出してくれるのではないかと、錯覚してしまう。
どうしてもしんみりしてしまうヴァンに、墓標で手を合わせていたシェルは笑顔を向けた。
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