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「ほら、ヴァンちゃんも、手を合わせて」
「うん」
シェルに促されたヴァンも墓標に手を合わせる。二人はそうしてしばらくしていたが、
「じゃあ、行きましょうか。お茶、飲んでいくでしょう?」
シェルはにっこりとヴァンに微笑みかけると小さなヴァンの手を取って離れに向けて歩き始めた。
それは花が咲きほころびる、美しい季節だった。やわらかな緑が辺りを包み、その緑を埋めるように色とりどりの花々が咲き乱れる。
二人はよく手入れされた城内の庭を、手を繋いで歩いていた。
「なぁ、シェル。獣人族のゼール王子が正式に、王位継承が決まったって話、知ってるか?」
「ゼール王子? どなた?」
「シェルは獣人族のこと、何も知らないの?」
「そうね~。獣人族の方とは、お会いしたことがなくって……」
暖かな道を歩いているとヴァンが獣人国の話を切り出してきた。
シェルは獣人国はおろか、この人間国から出たことがなかったため、獣人族を直接その目で見たことがなかった。しかし、
「あ! 獣人族は一人の旦那様に一人の奥様って決まっているのでしょう? それは気になるわ」
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