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7月13日
ちょっ、直視してしまった...!!
不自然なくらいに顔を背けてしまったところで、誰にも気にされることはない。なのにわざとらしくペンを回したりコーヒーをすすったりしてしまうのは、なけなしの自尊心のせいかもしれない。
それにしても、今日も今日とて顔がいいっ。
鉛筆を大袈裟に動かして描いていくキャラクター絵の下書きは、きっと描き直しだ。
ファミレスのディナータイムにウェイターをしている、推定大学生の彼。塾帰りの女子高生から残業帰りのOLまでが、目をハートにして見上げている。しがない漫画家風情の私も、そのうちの1人だ。
男性らしいというより、中性的。甘い顔立ちに、伸びた前髪を黒ピンで「バッテン」にして止めているあたりが、計算高い。細身の体型とは裏腹に、まくった袖から覗く腕には血管が浮き出ていて、「雄」を感じさせる。
漫画的にも「絵になる」彼を観察するために、毎日ジャンキーな夜食に耐えていると言っても過言ではない。
ピンチに陥ったヒロインをスマートに助ける王子様キャラもいいし、片思い中のヒロインを翻弄するいじわるキャラもいい。
注文時にしかやり取りをしないから、キャラクター設定が上手くいかない。ここぞという時に使いたいモデルなので、失敗はしたくない。
慎重になっているうちに、私自身のチャンスが巡ってこなくなっている。
お近づきになりたいとは言わないから...!!
女子高生と談笑している横顔を、メニューの隙間から垣間見る。
「勉強、頑張って」
爽やかに手を振って、店の入り口に向かう。
「いらっしゃいませ、何名様で」
トレイが落ちたり、グラスが割れたり。そんなベタな演出は要らない。
たしかに今、時は止まった。
入り口すぐそば、今日の席取りは完璧だった。
「せんぱい、なんで」
レジに向かうのが数秒早ければ、この場面には出会えなかった。
「なんでって、職場近いから。1人ね」
まっすぐに伸びた右手人差し指は、きっちり結んだポニーテールと共に「せんぱい」のキャラクターを物語っていた。
「はっ、はい」
いつもよりぎこちなく案内文句を述べる。
「というか、バイト始めたのってここだったんだね。言ってくれれば、もっと来たのに」
「いっ、いえっ」
両手で頬を叩いて気合いを入れたいのは、私だって同じだった。
会計を他の店員さんにお願いして、店を飛び出した。
描きたいって、パワーだ。
まさか、年上女性を思う可愛い系年下男子だったなんて!!!
ナイスの日
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