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7月14日
カランと音を立てたのは、溶けかけの氷だった。
静かとはいえない店内で、そう大きくはない氷が擦れ合う音。しかも、自分の手元ではなく向かいのグラスの音。
――そろそろ、潮時だろうか。
「そろそろやめにしないか」
「ううん...」
上半身をテーブルに委ねて情けなく呻く姿は、昼間の彼女からは想像し難い。
「ここは俺が払うから」
右手に握られたグラスを取ろうとするが、想像以上に力が加わっていて驚いた。
「もうそれ、美味くないだろ」
底に溜まっているのは氷が溶け出した水分だけで、酒らしい色は残っていない。
「飲みますよお、先輩のおごりですから」
成立した会話に思わず左手を話すと、一気にグラスを煽った。
ほうと息を吐く姿はどこか艶めいているが、溜息を吐いただけかもしれない。
「なんで上手くいかないんだろう」
「あの仕事は慣れるのに時間がかかるんだよ。俺も苦労した」
「でもおー」
ぺちゃり。
再び突っ伏してしまった現状は、進展したのか後退したのか。濃いブラウンの交じる頭に、手を伸ばす。
「相談でも愚痴でも、いつでも聞くから」
朝には滑らかになびいていたストレートも、この時間になればゴワゴワと指に絡んでくる。
「愚痴なんて、そんな」
頭が動いたのを合図に、手を引いた。
――これを飲み干したら、タクシーに彼女を押し込んで、まっすぐ家に帰る。
角度を変えて動く頭にも、見上げてくる視線にも、答えることはしなかった。
だって。
「ほら、帰るぞ」
「はあい」
きみの視線は、いつもねつれつ。
ひまわりの日
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